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なぜVPNが狙われるのか?ランサムウェア対策の専門家が教える根本原因と解決策

目次[非表示]

  1. 【原因究明】ランサムウェア攻撃者がVPNを狙う3つの根本原因
  2. あなたの会社は大丈夫?情報システム担当者が今すぐ確認すべきVPNセキュリティチェックリスト
  3. ランサムウェア対策の決定版!VPNセキュリティを強化する具体的解決策
  4. まとめ:VPNをランサムウェアの侵入口にしないために、情報システム担当者がやるべきこと

なぜ、安全なはずのVPNがランサムウェアの侵入口になるのか?

リモートワークの普及に伴い、多くの企業で導入されているVPN(Virtual Private Network)。社外から社内ネットワークへ安全に接続するための「仮想的な専用線」として、ビジネスに不可欠なインフラとなっています。しかし、その「安全なはず」という神話が今、大きく揺らいでいます。近年、このVPNを悪用したランサムウェア攻撃が後を絶たず、多くの企業が甚大な被害に見舞われているのです。

本記事では、なぜVPNがランサムウェアの格好の標的となるのか、その根本原因を情報システム担当者の視点から徹底的に解説します。さらに、自社のVPN環境を今すぐ確認できるチェックリストから、次世代のリモートアクセス環境まで、具体的な解決策を専門家の視点で詳しくご紹介します。

急増するVPN経由のランサムウェア被害、その驚くべき実態

「うちは大丈夫だろう」―。そう考えている情報システム担当者の方にこそ、知っていただきたい事実があります。VPN機器の脆弱性を突いた侵入は、もはや他人事ではありません。実際に、警察庁が発表した最新のデータは、その深刻さを明確に示しています。

令和6年上半期(1~6月)に警察庁に報告されたランサムウェアによる被害件数は114件と、依然として高い水準で推移しており、その主な感染経路は、VPN機器からの侵入(52件)とリモートデスクトップからの侵入(19件)でした。

出典: 警察庁「令和6年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和6年9月19日)

このデータが示すように、VPN機器はランサムウェアの主要な感染経路となっており、攻撃者にとって最も狙いやすい侵入口の一つであることは疑いようのない事実です。

「境界型防御」の限界 - 従来のVPNセキュリティが通用しない時代へ

なぜ、これまで安全とされてきたVPNが、これほどまでに狙われるのでしょうか。その背景には、従来のセキュリティモデルである「境界型防御」の限界があります。

境界型防御とは、「社内は安全、社外は危険」という考え方に基づき、社内ネットワークと外部インターネットの境界にファイアウォールやVPNといった壁を築き、その内側を守るというモデルです。一度VPNで認証が通れば、社内ネットワークのサーバーやPCに比較的自由にアクセスできる環境がこれに当たります。

しかし、このモデルは一度でも侵入を許してしまうと、内部での不正な活動(ラテラルムーブメント)を検知・防御することが非常に困難であるという大きな弱点を抱えています。攻撃者は、VPNの脆弱性や窃取した認証情報を利用して一度内部に侵入してしまえば、あとは時間をかけて重要な情報を探し出し、ランサムウェアを仕掛けることができてしまうのです。リモートワークやクラウドサービスの利用が当たり前になった現代において、もはや社内と社外の境界は曖昧になり、境界型防御という考え方そのものが見直しの時期に来ています。

この記事でわかること:VPNの脆弱性を克服し、ランサムウェアから組織を守る方法

この記事を最後までお読みいただくことで、以下のことが明確になります。

  • ランサムウェア攻撃者がVPNを狙う具体的な3つの根本原因
  • 自社のVPNセキュリティ体制を客観的に評価するためのチェックリスト
  • 既存のVPN環境を今すぐ強化するための具体的な応急措置
  • 脱VPNを見据えた、次世代のリモートアクセス(ゼロトラスト、SASE)の基本

それでは、なぜ攻撃者がVPNを狙うのか、その根本原因から詳しく見ていきましょう。

【原因究明】ランサムウェア攻撃者がVPNを狙う3つの根本原因

攻撃者は、企業の防御の「穴」を常に探しています。そしてVPNには、残念ながら攻撃者にとって魅力的な「穴」となり得る要素が存在します。ここでは、ランサムウェア攻撃者がVPNを執拗に狙う3つの根本原因を深掘りします。

原因1:放置されたVPN機器の「脆弱性」

最も深刻かつ頻繁に悪用されるのが、VPN機器自体に存在する「脆弱性」です。

パッチ未適用のリスクと過去の重大インシデント事例

VPNはインターネットに直接接続されているため、攻撃者から24時間365日スキャンされ、脆弱性を探られています。メーカーからセキュリティパッチ(修正プログラム)が公開されても、それを適用しないまま放置していると、攻撃者に「どうぞ侵入してください」と言っているようなものです。

過去には、大手VPNメーカーの製品に重大な脆弱性が発見され、世界中の多くの企業がランサムウェアの被害に遭うという大規模なインシデントが何度も発生しています。パッチの適用が1日遅れただけで、企業の命運が尽きる可能性すらあるのです。

自社のVPN機器の脆弱性情報を効率的に確認する方法

「うちのVPNは大丈夫だろうか?」と不安に思われた担当者の方も多いでしょう。脆弱性情報を効率的に収集し、迅速に対応するためには、以下の方法が有効です。

  • JVN(Japan Vulnerability Notes)の確認:JPCERT/CCとIPAが共同で運営する脆弱性対策情報ポータルサイトです。国内で利用されている多くのソフトウェア製品の脆弱性情報が日本語で公開されています。
  • メーカーのセキュリティアドバイザリの購読:利用しているVPN機器のメーカーが発信するセキュリティ情報をメールなどで受け取れるように設定しましょう。最も早く、正確な情報を得られます。
  • 脆弱性診断サービスの活用:定期的に専門家による脆弱性診断を受けることで、自社では気づきにくい設定ミスや未知の脆弱性を発見できる可能性があります。

原因2:漏洩・窃取された認証情報(ID/パスワード)

VPN機器自体に脆弱性がなくても、認証情報(IDとパスワード)が漏洩してしまえば、攻撃者は正規の利用者になりすまして堂々と侵入できてしまいます。

ダークウェブで売買されるVPNアカウント情報の実態

攻撃者は、フィッシング詐欺やマルウェア感染、他サービスからのパスワードリスト攻撃など、あらゆる手段で認証情報を狙っています。そして、窃取したVPNアカウント情報は、ダークウェブ上の闇市場で活発に売買されています。驚くべきことに、企業の規模や業種によっては、一つのVPNアカウントが数千ドルで取引されるケースもあるのです。

パスワードの使い回しや初期設定のままが招く致命的な結果

多くの従業員は、覚えやすさから複数のサービスで同じパスワードを使い回す傾向があります。もし、セキュリティの甘い別のWebサービスからパスワードが漏洩した場合、その情報を使ってVPNへの不正ログインが試みられる可能性があります。

また、意外と見落とされがちなのが、VPN機器の管理者アカウントのパスワードを初期設定のままにしているケースです。これは攻撃者にとって、鍵のかかっていない玄関のドアを開けるようなものであり、極めて危険な状態と言えます。

原因3:設定ミスや不十分なアクセス制御

VPN機器の脆弱性対応や認証情報の管理ができていても、設定そのものに不備があれば、それはセキュリティホールとなり得ます。

「とりあえず接続できる」設定に潜む危険性とは?

「リモートワークを急いで導入するために、とりあえず外部から社内につながるように設定した」というケースは非常に危険です。例えば、VPNで接続したユーザーに、必要以上の広範なアクセス権限を与えてしまっている場合がこれに該当します。

本来、営業担当者であれば顧客管理システムにさえアクセスできれば良いはずなのに、経理サーバーや開発サーバーにまでアクセスできる設定になっていると、万が一その営業担当者のアカウントが乗っ取られた場合、被害が基幹システム全体にまで及ぶ可能性があります。

最小権限の原則がなぜVPNセキュリティにおいても重要なのか

セキュリティの世界には「最小権限の原則」という基本概念があります。これは、「ユーザーやシステムに、業務を遂行するために必要最小限の権限のみを与える」という考え方です。

VPNにおいてもこの原則は極めて重要です。ユーザーの役職や部署に応じて、アクセスできるサーバーやアプリケーションを厳密に制限することで、たとえ不正侵入を許したとしても、被害を最小限に食い止めることができます。VPN接続後のアクセス制御が不十分な状態は、ランサムウェアの感染拡大(ラテラルムーブメント)を容易にし、被害を深刻化させる大きな要因となります。

あなたの会社は大丈夫?情報システム担当者が今すぐ確認すべきVPNセキュリティチェックリスト

ここまでの原因を踏まえ、自社のVPN環境が安全かどうかを客観的に評価するためのチェックリストを作成しました。一つでも「いいえ」や「わからない」があれば、それは潜在的なリスクを抱えている証拠です。

脆弱性管理のチェックポイント

バージョンは最新か?パッチ適用プロセスは確立されているか?

  • VPN機器のファームウェアやソフトウェアは、常に最新バージョンに更新されていますか?
  • メーカーから脆弱性情報が公開された際に、迅速に情報をキャッチし、テストを経て本番環境に適用するまでのプロセス(手順、担当者、連絡体制)が明確に定義されていますか?
  • パッチ適用の作業記録は適切に管理されていますか?

認証・認可プロセスのチェックポイント

多要素認証(MFA)は導入済みか?パスワードポリシーは適切か?

  • VPN接続時の認証は、ID/パスワードだけでなく、スマートフォンアプリやSMS、物理キーなどを組み合わせた多要素認証(MFA)が必須になっていますか?
  • パスワードポリシー(文字数、複雑さ、有効期限など)は、現在の脅威レベルに見合った適切なものに設定されていますか?
  • 推測されやすい安易なパスワード(例: password123)が設定されていないか定期的に監査していますか?

ログ監視・異常検知体制のチェックポイント

不審な時間帯や場所からのアクセスを検知できるか?

VPNのアクセスログを定期的に監視し、分析する体制はありますか?

  • 深夜や早朝など、通常の業務時間外からの不審なログインはありませんか?
  • 国内の従業員のはずが、海外のIPアドレスからアクセスしているといった異常を検知し、アラートを上げる仕組みはありますか?
  • 短時間に何度もログイン失敗を繰り返すブルートフォース攻撃の兆候を検知できますか?

ランサムウェア対策の決定版!VPNセキュリティを強化する具体的解決策

チェックリストで課題が見つかった場合でも、悲観する必要はありません。今からでも打てる手は数多く存在します。ここでは、短期的な応急措置と、中長期的な視点での抜本的な解決策の両方をご紹介します。

【今すぐできる】既存VPN環境のセキュリティを強化する応急措置

まずは、現在のVPN環境を前提として、セキュリティレベルを可及的速やかに向上させるための対策です。

脆弱性パッチの迅速な適用と管理体制の構築

前述の通り、脆弱性の放置は致命傷になりかねません。メーカーからの情報を常に監視し、パッチが公開されたら即座に適用できる体制を構築しましょう。業務影響を考慮し、検証環境での事前テストは重要ですが、「週末にまとめて」といった悠長な対応では手遅れになる可能性があります。緊急性の高い脆弱性に対しては、即日対応を原則とするルール作りが求められます。

多要素認証(MFA)の導入は必須要件

もはやパスワードだけの認証は限界です。ID/パスワードが漏洩しても、それだけではログインさせないための最後の砦が多要素認証(MFA)です。スマートフォンアプリを利用したプッシュ通知やワンタイムパスワードなど、様々な方式がありますが、導入コストと運用負荷、従業員のリテラシーを考慮して、最適なものを選択しましょう。ランサムウェア対策において、MFAの導入は「推奨」ではなく「必須」の要件です。

不要なアカウントの棚卸しとアクセス権の定期的な見直し

退職した従業員や、異動によって不要になったVPNアカウントが放置されていないでしょうか。これらの休眠アカウントは、攻撃者にとって格好の標的となります。四半期に一度など、定期的にアカウントの棚卸しを行い、不要なものは即座に削除・無効化するプロセスを徹底してください。

同時に、既存のアカウントについても、アクセス権が「最小権限の原則」に則っているかを定期的に見直しましょう。業務内容の変更に伴い、不要になったアクセス権は速やかに剥奪することが重要です。

【中長期的な視点】脱VPNへ - 次世代のリモートアクセス環境とは?

従来のVPNが抱える境界型防御の課題を根本的に解決するために、近年「ゼロトラスト」という考え方がセキュリティの主流となりつつあります。

ゼロトラスト・ネットワーク・アクセス(ZTNA)の基本概念とメリット

ゼロトラストとは、その名の通り「何も信頼しない(Trust Nothing, Verify Everything)」を前提とするセキュリティモデルです。社内ネットワークであろうと、一度認証したユーザーであろうと、すべてのアクセスを信頼せず、アクセスのたびにその正当性を検証します。

このゼロトラストの考え方をリモートアクセスで実現するのがZTNA(Zero Trust Network Access)です。ZTNAは、VPNのようにネットワーク全体へのアクセスを許可するのではなく、ユーザーと特定のアプリケーションを「1対1」で接続します。

ZTNAの主なメリット: 強固なセキュリティ:万が一ユーザーのアカウントが乗っ取られても、アクセスが許可された特定のアプリケーション以外には接続できないため、ランサムウェアの横展開(ラテラルムーブメント)を効果的に防ぎます。 ユーザーの利便性向上:場所やデバイスを問わず、セキュアに必要なアプリケーションへ直接アクセスできるため、VPNのような煩わしさから解放されます。 * シンプルなアクセス管理:ユーザーごと、アプリケーションごとにきめ細やかなアクセスポリシーを設定でき、管理が容易になります。

SASE(Secure Access Service Edge)が注目される理由

SASE(サシー)は、ZTNAを含むネットワーク機能と、複数のセキュリティ機能をクラウド上で統合して提供するフレームワークです。リモートワーカーやクラウドサービスの利用が増える中で、セキュリティポリシーを一元的に適用し、どこからアクセスしても同じレベルのセキュリティを確保できるため、次世代のネットワークセキュリティの形として大きな注目を集めています。

VPNからZTNA/SASEへ移行する際のステップと注意点

脱VPN、そしてZTNA/SASEへの移行は一朝一夕にはいきません。以下のステップを参考に、計画的に進めることが成功の鍵となります。

  1. 現状把握:誰が、どこから、どのアプリケーションにアクセスしているかを可視化する。
  2. スモールスタート:特定の部署やアプリケーションから限定的にZTNAを導入し、効果と課題を検証する。
  3. ポリシーの策定:自社のセキュリティ要件に基づき、詳細なアクセスポリシーを定義する。
  4. 段階的な展開:スモールスタートで得た知見を活かし、対象範囲を徐々に拡大していく。

注意点としては、既存のネットワーク構成やアプリケーションとの互換性、そして従業員への教育が挙げられます。専門知識を持つベンダーやパートナーと協力しながら、自社に最適なソリューションを選定することが重要です。

まとめ:VPNをランサムウェアの侵入口にしないために、情報システム担当者がやるべきこと

本記事では、VPNがランサムウェアの侵入口として狙われる根本原因と、その具体的な対策について詳しく解説してきました。最後に、重要なポイントを改めて整理します。

VPNが狙われる根本原因と対策の重要ポイントおさらい

  • 狙われる原因
    1. 脆弱性の放置:パッチ未適用が致命的な侵入口となる。
    2. 認証情報の漏洩:パスワードの使い回しやMFA未導入がリスクを高める。
    3. 不十分なアクセス制御:最小権限の原則が守られていない設定ミス。
  • 今すぐやるべき対策
    1. 迅速なパッチ適用:脆弱性管理体制の確立。
    2. MFAの必須化:パスワードだけに頼らない強固な認証。
    3. アカウントと権限の棚卸し:不要なリスクの定期的な排除。
  • 中長期的なゴール
    1. ゼロトラストへの移行:「何も信頼しない」を前提としたZTNA/SASEの導入。

今日から始めるアクションプラン:自社のリモートアクセス環境を守る第一歩

VPNは、適切に管理・運用されていれば依然として有効なツールです。しかし、「導入して終わり」ではないことを強く認識しなければなりません。この記事で紹介したチェックリストを手に、まずは自社のVPN環境の現状を把握することから始めてください。一つでも多くの項目をクリアすることが、ランサムウェアの脅威から会社を守る確実な一歩となります。

そして、もし自社のセキュリティ対策に少しでも不安を感じたり、ZTNAやSASEへの移行を具体的に検討したいとお考えでしたら、ぜひ一度、私達専門家にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なセキュリティ強化策をご提案いたします。

リモートアクセス環境のセキュリティ診断や、次世代ソリューションに関するご相談は、以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。

古田 清秀(ふるた きよひで)
古田 清秀(ふるた きよひで)
InfiniCore株式会社 ソリューションサービス事業本部 責任者 新卒以来30年以上IT業界に在籍し、サイバーセキュリティの最前線で活躍する専門家です。 ネットワークインフラ構築の営業を通じてセキュリティの重要性を痛感。前職では新規セキュリティサービスのプロジェクトマネージャー(PM)として、その立ち上げを成功に導きました。 長年の経験と深い知見を活かし、複雑なセキュリティ課題を分かりやすく解説。企業の安全なデジタル変革を支援するための情報発信を行っています。