
ひとり情シスの限界…ネットワーク保守を「外注」すべき危険な兆候
目次[非表示]
ネットワーク保守とは?情シスの時間を奪う「見えない業務」の正体
「突然インターネットがつながらない」「Wi-Fiが遅いと現場から怒号が飛ぶ」「VPN接続エラーで深夜に呼び出される」……。
中小企業の情報システム担当者(情シス)、特にたった一人で社内ITを支える「ひとり情シス」にとって、ネットワークに関するトラブル対応は日常茶飯事であり、かつ最大のストレス源ではないでしょうか。
多くの企業において、ネットワークは「つながって当たり前」のインフラとして認識されています。そのため、平時の安定稼働に尽力していても評価されにくく、ひとたび障害が起きれば即座に責任を問われるという、非常に報われない側面を持っています。
本記事では、情シスの貴重なリソースを食いつぶす「ネットワーク保守」の正体を解剖し、内製(自社対応)の限界と外注化の判断基準について、2026年現在の最新トレンドを交えて解説します。
「運用」と「保守」の違いと、ひとり情シスの現実
まず、混同されがちな「運用」と「保守」の定義を整理しましょう。一般的なITサービスマネジメントやIPA(独立行政法人情報処理推進機構)の定義に基づくと、以下のように区別されます。
- 運用(Operation):システムを「止めない」ための定常業務。
- 例:ログ監視、アカウント管理、定期バックアップ、稼働状況のモニタリングなど。
- 特徴:手順が決まっており、計画的に実施できる。
- 保守(Maintenance):システムを「直す」「良くする」ための不定期・突発業務。
- 例:障害発生時の切り分け・復旧、ファームウェアのアップデート、機器故障時の交換手配、設定変更など。
- 特徴:突発的に発生し、緊急度が高く、高度な判断が求められる。
ひとり情シスの現実
定義上は分かれていても、ひとり情シスの現場ではこれらが渾然一体となっています。計画的な「運用」を行っている最中に、突発的な「保守」案件(トラブル)が割り込み、本来やるべきDX推進やセキュリティ対策などの「コア業務」が中断される──これが典型的な負のパターンです。
実際、2025年に発表された調査によると、中堅・中小企業における「ひとり情シス」の割合は**24.5%**に達し、直近2年で増加傾向にあります。人手不足が加速する中、ネットワーク保守のような「守りの業務」をいかに効率化・外部化できるかが、情シスの生存戦略といっても過言ではありません。
2025年10月発表の調査において、中堅・中小企業の24.5%は「ひとり情シス」であり、2023年から3.2ポイント上昇していることが明らかになりました。
【タスク棚卸し】ネットワーク保守に含まれる具体的業務リスト
「ネットワーク保守」と一口に言っても、その範囲は広大です。外注を検討する前に、ご自身が抱えているタスクを以下のリストで棚卸ししてみてください。これらすべてを一人で、かつ属人的に抱え込んでいないでしょうか。
1. 監視・検知
- 死活監視(Ping等による機器応答確認)
- リソース監視(CPU、メモリ、トラフィック量の確認)
- syslogの確認と異常検知
2. 障害対応(トラブルシューティング)
- 障害発生時の一次切り分け(PCか、HUBか、ルーターか、回線か?)
- 通信キャリアやベンダーへの問い合わせ代行
- 代替機への交換作業、コンフィグ(設定情報)の復元
3. 構成管理・維持
- ネットワーク構成図(トポロジー図)の更新
- IPアドレス管理台帳の更新
- 機器台帳の管理(シリアルNo、保守期限の管理)
4. 脆弱性対応・メンテナンス
- ルーター・スイッチ・FWのファームウェア更新(深夜・休日作業になりがち)
- セキュリティパッチの適用と動作検証
これらは、ビジネスに直接的な利益を生み出しにくい「守り」の業務ですが、怠ればセキュリティ事故や業務停止に直結する重要業務です。このジレンマこそが、ネットワーク保守の難しさです。
「もう限界だ…」ネットワーク保守を外注すべき5つの危険な兆候
どのようなタイミングで外注(アウトソーシング)を検討すべきでしょうか。以下に挙げる5つの兆候のうち、2つ以上に当てはまる場合は、組織として限界を迎えている可能性が高いです。
1. 障害対応で「コア業務(DX推進・システム企画)」が頻繁に止まる
経営層からは「業務効率化のためのDX」や「生成AIの活用」を求められているにもかかわらず、実際は「ネットが遅い」という問い合わせ対応で一日が終わるケースです。
突発的な保守対応により、本来のミッションである企画・改善業務(コア業務)に使うべき時間が20%未満になっているなら、あなたのスキルは浪費されています。会社としての機会損失も甚大です。
2. 担当者が休むとネットワークの設定変更・復旧ができない(完全な属人化)
「私がインフルエンザで倒れたら、この会社のネットワークは止まる」。
このプレッシャーは精神衛生上よくありません。VPNの設定変更や、フロアレイアウト変更に伴うVLAN設定などが、特定の担当者しか触れない状態(ブラックボックス化)は、BCP(事業継続計画)の観点からも極めて危険です。ドキュメントがなく、担当者の「頭の中」にしか構成図がない状態は、外注化以前に整理が必要な段階です。
3. 機器のファームウェア更新・パッチ適用が「後回し」になっている
ネットワーク機器の脆弱性を突いたサイバー攻撃は年々高度化しています。メーカーから緊急パッチがリリースされているのに、「忙しいから」「止めるタイミング調整が面倒だから」と数ヶ月放置していないでしょうか。
保守業務が飽和し、セキュリティリスクを許容せざるを得ない状況になっているなら、それは管理不能(アンマネージド)な状態といえます。
4. 休日・夜間の連絡に常に怯えている(心理的負担の限界)
社用携帯を常に持ち歩き、休日のレジャー中や深夜の睡眠中でも着信にビクビクする生活を送っていませんか?
24時間365日稼働するシステムや、休日稼働のある工場・店舗を持つ企業の場合、ひとり情シスが全時間の保守を担うのは物理的に不可能です。プライベートの欠如は離職の直接的な原因になります。
5. ネットワーク構成図が古く、実態と乖離している
「つぎはぎ」で拡張してきたネットワークの全貌を誰も把握していない状態です。
「どのケーブルがどこに繋がっているか分からない」「謎のハブが天井裏にある」といった状態では、障害時の切り分けに膨大な時間がかかります。外部のプロを入れて現状調査(アセスメント)を行い、構成を可視化・適正化する必要があります。
内製か外注か?コストとリスクの徹底比較シミュレーション
経営層を説得する際、最大の壁となるのが「コスト」です。「社員がやればタダ(無料)だが、外注すると金がかかる」という誤解を解く必要があります。
内製化(自社運用)の隠れたコストとリスク
内製はキャッシュアウト(現金の支出)こそ見えにくいですが、以下のような「隠れたコスト」が発生しています。
- 採用・教育コスト:
ネットワークスキルを持つ人材の採用難易度は年々上がっています。万が一、現在の担当者が退職した場合、同レベルの人材を採用するには年収600〜800万円以上の提示や、エージェント費用(年収の35%程度)が必要です。 - 機会損失コスト:
高給な情シス担当者が、本来生み出せたはずのDXによる利益(売上増・コスト削減効果)が失われています。 - 属人化リスクの顕在化:
担当者不在時のダウンタイム(業務停止時間)が長引けば、全社員の給与が無駄になり、顧客の信頼も失います。
アウトソーシング(外注)のメリット・デメリット
項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
品質 | 専門家による高品質・安定的な運用が可能。最新のセキュリティ動向にも対応。 | ベンダーのスキルレベルに依存する。丸投げすると社内にノウハウが残らない。 |
コスト | 固定費化・平準化できる。採用コスト不要。 | 内製(残業対応)と比較すると、表面的な月額費用は発生する。 |
継続性 | 担当者の退職リスクがない。組織的な対応が可能。 | ベンダーロックイン(特定の業者に依存しすぎて切り替えられない)のリスク。 |
業務 | 情シスはコア業務に集中できる。 | 契約範囲外の作業(例:物理配線の整理など)は別料金になる場合がある。 |
【経営層説得用】「安心を買う」ための投資対効果(ROI)の考え方
経営層には、「保険」としての側面と、「生産性向上」の側面で説明します。
- ダウンタイム損失の回避:
「全社員50名がネットワーク障害で半日仕事ができなかった場合、人件費だけで約〇〇万円の損失です。保守費用月額〇万円でこれを防ぎ、早期復旧を担保できます」 - 攻めのITへのシフト:
「保守を外注することで、私は〇〇システムの導入プロジェクトに専念でき、年間〇〇万円のコスト削減効果を出せます」
失敗しないネットワーク保守業者の選び方と費用相場
いざ外注を決めても、業者選びを間違えると「高いだけで何もしてくれない」という事態になりかねません。
委託範囲のレベル定義(監視のみ/リモート/オンサイト)
自社のニーズに合わせて、依頼するレベルを明確にします。
- 監視のみ(Monitoring):
機器の死活監視を行い、アラートをメール通知してくれるだけ。対応は自社で行う。安価だが負担軽減効果は薄い。 - リモート保守:
障害時にリモートアクセスして調査・設定変更を行う。物理的な故障対応はできないが、多くのソフト的なトラブルは解決可能。 - オンサイト保守(駆けつけ対応):
エンジニアが現地(オフィス)に訪問して機器交換や配線確認を行う。最も安心だが、費用は高くなる。
SLA(サービスレベル合意書)で確認すべき重要項目
契約前に必ず確認すべきなのがSLA(Service Level Agreement)です。「ベストエフォート(頑張りますが保証はしません)」なのか、数値をコミットするのかを確認しましょう。
- 対応開始時間:問い合わせから何分以内に一次回答があるか(例:30分以内)。
- 駆けつけ時間(オンサイトの場合):連絡から何時間以内に現地到着するか(例:4時間以内、翌営業日など)。
- 稼働保証時間:平日9-17時のみか、24時間365日か。
メーカー保守 vs 第三者保守(EOSL) vs SIer保守
保守の依頼先にはいくつか種類があります。特に近年注目されているのが第三者保守(EOSL保守)です。
- メーカー保守:機器メーカー純正のサポート。安心だが、製造終了(EOSL)と共に打ち切られる。
- SIer・ベンダー保守:構築した業者が窓口となる。システム全体を把握している強みがある。
- 第三者保守(EOSL保守):
メーカーサポートが切れた(EOSL)機器について、中古パーツ等を用いて独自に保守を行うサービス。
「予算がないのでリプレイス(買い替え)はできないが、今の機器を使い続けたい」という場合に最適です。2025年現在、市場規模は300億円以上に拡大しており、コスト削減の切り札として利用企業が急増しています。
第三者保守の市場規模は年々拡大しており、2025年には300億円以上に達すると予測されています。既存システムを延命し、浮いた予算をDXへ投資する戦略が広がっています。
出典:第三者保守協会
ネットワーク保守費用の相場感(中小企業向け目安)
費用は対象機器の台数やSLAによって大きく変動しますが、中小企業(50〜100名規模)の目安は以下の通りです。
- 初期費用:数万〜10万円程度(調査・監視設定)
- 月額費用:
- サーバー/ネットワーク保守全体:構築費用の10〜15%程度が一般的。
- 機器単体の保守(例:ルーター数台):月額2〜5万円〜。
- システム全体(小規模):月額10〜30万円程度。
「月額3万円〜」といった格安サービスもありますが、対応回数制限や対象範囲をよく確認する必要があります。
外注化を成功させるための「業務切り出し」3ステップ
いきなり「全部お願いします」と丸投げするのは失敗の元です。段階的に進めましょう。
Step 1:現状のネットワーク構成と資産の「棚卸し」
まず、自社に何があるかを把握します。
- ネットワーク構成図(古くても可)
- 機器リスト(メーカー、型番、IPアドレス、ID/PW)
- 回線契約情報(キャリア、ISP情報)
これらが揃っていない場合、「現状調査(アセスメント)」自体を最初の依頼事項として発注するのも一つの手です。
Step 2:「定型業務」と「判断業務」の仕分け
- 定型業務(外注しやすい):死活監視、定期バックアップ、手順が決まっているアカウント登録、パッチ適用。
- 判断業務(社内に残すべき):セキュリティポリシーの策定、新規システムの導入企画、ベンダーコントロール。
まずは定型業務から切り出し、信頼関係ができてから範囲を広げましょう。
Step 3:RFP(提案依頼書)の作成とスモールスタート
口頭での依頼は「言った言わない」のトラブルになります。簡単なRFP(提案依頼書)を作成し、「何を」「どこまで」「いくらで」やってほしいかを明文化して複数社から見積もりを取りましょう。
最初は「監視と一次切り分け」だけを依頼し、効果を見ながら「オンサイト対応」を追加するなど、スモールスタートで始めるのがリスクを抑えるコツです。
まとめ:ネットワーク保守からの解放は「攻めの情シス」への第一歩
ひとり情シスの限界を感じたら、それは「ネットワーク保守」を見直すべきサインです。
- ネットワーク保守と運用は別物。突発的な「保守」が時間を奪う。
- コア業務の停滞、属人化、心理的負担は危険な兆候。
- 外注は「コスト」ではなく、事業継続とDX推進のための「投資」。
- まずは資産の棚卸しと、定型業務の切り出しから始める。
ネットワークという「足回り」の管理から解放されたとき、あなたは初めて、企業を成長させる「攻めの情シス」としての本領を発揮できるはずです。まずは現状の課題を可視化し、信頼できるパートナー探しの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


