
サプライチェーン攻撃とは?情シス担当者向けに仕組みと対策をわかりやすく解説
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「うちは大手企業じゃないから大丈夫」「セキュリティ対策はしっかりやっている」…本当にそうでしょうか?近年、企業の規模や業種を問わず、直接の攻撃ではなく、取引先や関連会社を経由して忍び寄る「サプライチェーン攻撃」の脅威が深刻化しています。
ある日突然、自社の機密情報が漏洩したり、生産ラインが停止したりといった事態に陥り、その原因が「まさか、あの取引先からだったとは…」と愕然とするケースが後を絶ちません。
この記事を読まれている情報システム担当者のあなたも、
「サプライチェーン攻撃という言葉は聞くけれど、具体的に何が危険なのかよくわからない」
「自社だけでなく、取引先まで含めたセキュリティ対策なんて、どこから手をつければいいんだ…」
といった漠然とした不安や疑問をお持ちではないでしょうか。
本記事では、そんな情シス担当者の皆さまに向けて、サプライチェーン攻撃の基本的な仕組みから、具体的な対策、万が一の際の初動対応まで、網羅的かつ分かりやすく解説します。この記事を読めば、サプライチェーン全体のセキュリティを強化するための、明日から実践できる具体的なアクションプランが見えてくるはずです。
サプライチェーン攻撃とは?まずは基本の仕組みをわかりやすく解説
サプライチェーン攻撃は、もはや他人事ではありません。まずはその定義と仕組みを正しく理解し、脅威の輪郭を明確に掴むことから始めましょう。
サプライチェーン攻撃の定義:従来のサイバー攻撃との決定的な違い
サプライチェーン攻撃とは、標的とする企業(ターゲット)に直接サイバー攻撃を仕掛けるのではなく、セキュリティ対策が比較的脆弱な取引先や子会社、業務委託先などをまず攻撃し、そこを踏み台として最終的なターゲットに侵入する攻撃手法の総称です。
従来のサイバー攻撃が、ターゲット企業の防御壁を正面から突破しようとする「力攻め」だとすれば、サプライチェーン攻撃は、防御の薄い裏口や通用口(=取引先)から忍び込む「奇襲」と言えます。
自社のセキュリティ対策をどれだけ強固にしても、取引関係のある企業や組織のどこか一箇所にでも脆弱性があれば、そこが侵入口となり、自社が被害を受ける可能性があるのです。この「自社だけでは防御が完結しない」という点が、従来のサイバー攻撃との決定的な違いであり、対策を難しくしている最大の要因です。
なぜ「サプライチェーン」が狙われるのか?攻撃の仕組みと流れを図解
攻撃者はなぜ、わざわざ取引先を経由するという、一見すると遠回りな方法を選ぶのでしょうか。その理由は、攻撃者にとって合理的かつ効率的だからに他なりません。
多くの大企業は、セキュリティ対策に多額の投資を行い、堅牢な防御システムを構築しています。正面からの攻撃でこれを突破するのは、攻撃者にとってもコストと時間がかかります。
一方で、サプライチェーンを構成する中小企業や関連会社の中には、残念ながらセキュリティ対策が十分とは言えないケースが少なくありません。
攻撃者は、この「セキュリティレベルの格差」に目をつけ、サプライチェーンの中で最も防御の弱い輪(Weakest Link)を狙ってきます。
サプライチェーン攻撃の基本的な流れは、以下の通りです。
- 【STEP1:偵察】 攻撃者は、ターゲット企業と取引のある関連会社や委託先(ソフトウェア開発会社、部品メーカー、保守・運用委託先など)をリストアップし、その中からセキュリティ対策が手薄な組織を特定します。
- 【STEP2:侵入】 特定した組織に対し、フィッシングメールや脆弱性を突くなどの手口でサイバー攻撃を仕掛け、社内ネットワークへの侵入を果たします。
- 【STEP3:潜伏・権限奪取】 侵入した組織のネットワーク内で密かに活動し、管理者権限などを奪取します。正規の通信に見せかけて活動するため、検知が非常に困難です。
- 【STEP4:踏み台攻撃】 奪取した権限や、信頼関係を悪用し、その組織を踏み台にして、本来のターゲットである企業のネットワークに侵入します。例えば、取引先になりすましてマルウェア付きのメールを送付したり、共有されているシステムを経由して侵入したりします。
- 【STEP5:目的達成】 ターゲット企業のネットワークに侵入後、機密情報の窃取、ランサムウェアによるデータの暗号化、システムの破壊といった最終目的を実行します。
このように、攻撃者は信頼関係という名の「パス」を悪用して、堅牢なはずの防御壁をいとも簡単にすり抜けてしまうのです。
知らないと危険!代表的な3つの攻撃手口
サプライチェーン攻撃には、様々な手口が存在します。ここでは、情報システム担当者として必ず押さえておくべき代表的な3つの手口を紹介します。
手口1:ソフトウェア・アップデートの悪用
多くの企業が利用している業務用ソフトウェアやツールの開発元に侵入し、正規のアップデートプログラムにマルウェアを混入させる手口です。
ユーザーは正規のアップデートだと思い込んでインストールするため、マルウェアとは気づきません。ソフトウェアの提供元を信頼しているが故に、無防備に攻撃を受け入れてしまう非常に悪質な攻撃です。世界的に大きな被害を出した「SolarWinds事件」もこの手口によるものでした。
手口2:信頼されている取引先へのなりすまし
攻撃者が取引先のメールアカウントを乗っ取り、その取引先になりすましてターゲット企業に偽のメールを送付する手口です。
「請求書の送付先変更のお知らせ」「【至急】お見積りのご確認」といった、日常業務と見分けがつかない件名で、マルウェア付きの添付ファイルや、偽のログインページへ誘導するリンクを送りつけてきます。普段からやり取りのある取引先からのメールであるため、疑うことなく開封してしまい、被害に繋がるケースが後を絶ちません。
手口3:委託先企業の脆弱性を踏み台にする侵入
システムの開発や運用・保守などを外部の企業に委託している場合、その委託先企業のセキュリティ脆弱性が狙われるケースです。
例えば、委託先企業が管理するサーバーの脆弱性が放置されていたり、VPN機器の設定不備があったりすると、そこを足がかりに攻撃者はネットワークに侵入します。そして、委託先企業に与えられている正規のアクセス権限を悪用して、ターゲット企業のシステムに侵入するのです。
これらの手口を見てわかるように、サプライチェーン攻撃は自社だけでは防ぎきれない巧妙な罠を仕掛けてきます。次の章では、その脅威がいかに現実的で深刻なものであるかを、具体的な事例を交えて見ていきましょう。
「うちの会社は大丈夫」は禁物!サプライチェーン攻撃の脅威と最新事例
「サプライチェーン攻撃が危険なのは分かったが、実際に被害に遭うのは一部の大企業だけだろう」——もし、そうお考えなら、その認識は今すぐ改める必要があります。サプライチェーン攻撃の真の恐ろしさは、ターゲットが大企業であっても、その攻撃の起点がセキュリティの脆弱な中小企業であるケースが非常に多い点にあります。
なぜセキュリティが強固な大企業より、取引先の中小企業が標的になるのか?
答えはシンプルで、「攻撃者にとって、その方が“楽”だから」です。
前述の通り、多くの大企業はサイバーセキュリティに多額の予算を投じ、多層的な防御策を講じています。正面突破には高い技術力と多大なコストが必要です。
一方で、サプライ-チェーンを構成する多くの中小企業では、
- 予算や人材の不足から、十分なセキュリティ対策が講じられていない
- セキュリティに関する専門知識を持つ担当者がいない
- 「うちは狙われるような情報はない」という過信や意識の低さ
といった課題を抱えているのが実情です。
攻撃者は、この「セキュリティ格差」を巧みに利用します。彼らにとって、セキュリティ対策が手薄な中小企業は、堅牢な城壁に囲まれた本丸(大企業)へ続く、警備の甘い「秘密の抜け道」に見えているのです。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査でも、サプライチェーン攻撃の脅威は年々深刻度を増しており、警告が鳴らされています。
情報セキュリティ10大脅威 2024
「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」は組織の脅威の第2位にランクインしており、長年にわたり企業にとって非常に高いリスクであり続けています。
この事実は、自社の規模に関わらず、全ての企業がサプライチェーン攻撃の「踏み台」にも「最終ターゲット」にもなり得ることを示唆しています。
【国内・海外】実際に起きたサプライチェーン攻撃の被害事例
ここでは、サプライチェーン攻撃がいかに甚大な被害をもたらすかを具体的にイメージしていただくために、実際に起きた事例を基に、架空のケーススタディとしてご紹介します。
事例1:大手製造業A社を襲った生産停止の悪夢
国内の大手自動車部品メーカーA社は、ある日突然、国内外の全工場の稼働停止という未曾有の事態に追い込まれました。原因は、取引先である中小の部品供給会社B社が受けたランサムウェア攻撃でした。
攻撃者は、まずセキュリティ対策が手薄だったB社のネットワークに侵入。そこを踏み台にしてA社との取引データを管理するサーバーにアクセスし、ランサムウェアを展開しました。これにより、A社は部品の発注や在庫管理システムが使用不能となり、生産計画が完全にストップ。結果として、A社だけでなく、A社に部品を供給するさらに多くの取引先や、完成車メーカーの生産ラインにまで影響が及ぶ、大規模なサプライチェーンの麻痺を引き起こしました。復旧までに数日を要し、その損失額は数百億円規模に上ったと言われています。
【この事例からの教訓】
一つの企業のシステム障害が、ドミノ倒しのようにサプライチェーン全体に広がり、事業継続そのものを脅かすことを示しています。
事例2:ソフトウェア開発会社B社が引き起こした大規模情報漏洩
多くの企業に顧客管理システム(CRM)を提供していたソフトウェア開発会社B社。ある日、B社が利用していたプロジェクト管理ツールのアカウント情報が闇サイトで売買されていることをきっかけに、大規模な情報漏洩が発覚しました。
攻撃者は、不正に入手したアカウントでツールにログインし、B社が開発中だった顧客管理システムのソースコードに不正なプログラムを埋め込みました。この不正プログラムは、B社の顧客である数十社のCRMシステムを通じて、その先にいる数百万件のエンドユーザーの個人情報を外部に送信する機能を持っていました。B社は信頼を失い、多くの顧客を失っただけでなく、巨額の損害賠償請求に直面することになりました。
【この事例からの教訓】
自社が提供する製品やサービスが、意図せずして攻撃の媒介となり、顧客やその先のユーザーにまで被害を拡大させてしまうリスクを示しています。
サプライチェーン攻撃がもたらす3つの深刻な経営リスク
これらの事例からも分かるように、サプライチェーン攻撃がもたらす被害は、単なる情報漏洩やシステム停止に留まりません。企業の存続をも揺るがしかねない、深刻な経営リスクに直結します。
リスク1:自社だけでなく取引先まで巻き込む事業停止
自社の生産ラインや基幹システムが停止すれば、当然ながら事業は継続できません。さらに深刻なのは、その影響が自社だけに留まらない点です。製品やサービスの供給が滞れば、取引先の事業活動にも多大な迷惑をかけることになり、サプライチェーン全体が機能不全に陥る可能性があります。
リスク2:多額の損害賠償と社会的信用の失墜
情報漏洩が発生した場合の損害賠償、システム復旧にかかる費用、事業停止期間中の逸失利益など、金銭的な損害は計り知れません。しかし、それ以上に大きなダメージとなるのが「社会的信用の失墜」です。「あの会社はセキュリティ管理が甘い」というレッテルは簡単には剥がせず、顧客離れや株価の下落、ブランドイメージの低下に繋がり、長期的に経営へ悪影響を及ぼします。
リスク3:取引関係の断絶とサプライチェーンの崩壊
自社が攻撃の「踏み台」となってしまった場合、取引先から損害賠償を請求されるだけでなく、最悪の場合、取引関係そのものを打ち切られてしまう可能性があります。重要な取引先を失うことは、企業の事業基盤を大きく揺るがします。また、逆に被害を受けた側としても、信頼できない取引先との関係を継続することは難しく、新たなパートナーを探さなければならなくなるなど、サプライチェーンの再構築を余儀なくされます。
「うちの会社は大丈夫」という根拠のない自信が、いかに危険であるかをご理解いただけたでしょうか。次の章では、これらの深刻なリスクを回避するために、情報システム担当者が今すぐ取り組むべき具体的な対策を5つに絞って解説します。
情報システム担当者が今すぐ実践すべき!サプライチェーン攻撃への5つの具体的対策
サプライチェーン攻撃への対策は、「自社」と「取引先」という両輪で進める必要があります。ここでは、情報システム担当者が主体となって推進すべき、5つの具体的な対策を詳しく解説します。
対策1:取引先・委託先のセキュリティリスクを可視化する
対策の第一歩は、「サプライチェーンのどこに、どのようなリスクが潜んでいるのか」を正確に把握することです。自社のセキュリティ対策が完璧でも、取引先の状況が分からなければ、それは「砂上の楼閣」に過ぎません。
セキュリティチェックシートの具体的な活用方法
取引先や業務委託先のセキュリティ対策状況を把握するための最も手軽で効果的な方法が、「セキュリティチェックシート」の活用です。
チェック項目カテゴリ | 具体的な質問例 |
|---|---|
組織的な対策 | ・情報セキュリティに関する社内規程はありますか? |
人的な対策 | ・全従業員に対して、定期的なセキュリティ教育を実施していますか? |
技術的な対策 | ・サーバーやPCのウイルス対策ソフトは導入・更新されていますか? |
物理的な対策 | ・サーバールームなど、重要な情報資産を扱うエリアへの入退室管理は行われていますか? |
インシデント対応 | ・サイバー攻撃などのセキュリティインシデント発生時の対応手順は定められていますか? |
【活用ポイント】
- 一方的な要求にしない: 「調査」という高圧的な態度ではなく、「サプライチェーン全体でセキュリティを高めるための協力のお願い」という姿勢で依頼することが重要です。
- リスクベースで濃淡をつける: 全ての取引先に同じ内容を求めるのではなく、取り扱う情報の重要度やシステムの連携レベルに応じて、チェック項目や要求水準に濃淡をつけるのが現実的です。
- 回答結果を評価し、改善を促す: 回収して終わりではなく、回答内容を基にリスクを評価します。もし、対策が不十分な点があれば、改善計画の提出を求め、継続的にフォローアップすることが不可欠です。
契約書に盛り込むべきセキュリティ条項のポイント
チェックシートと合わせて、新規契約時や契約更新時には、セキュリティに関する条項を契約書に明記することが極めて重要です。これにより、セキュリティ対策が法的な義務となり、相手方の意識も高まります。
【盛り込むべき条項の例】
- 情報セキュリティ体制の維持義務: 委託業務を遂行する上で、適切なセキュリティレベルを維持・管理する義務を課す。
- インシデント発生時の報告義務: セキュリティインシデント(情報漏洩の疑いを含む)が発生した場合、速やかに委託元へ報告することを義務付ける。
- 監査権: 委託元が必要と判断した場合、委託先のセキュリティ対策状況を監査できる権利を定める。
- 再委託先の管理責任: 業務を再委託する場合、再委託先にも同等のセキュリティレベルを遵守させる責任を明記する。
- 損害賠償: セキュリティインシデントに起因して委託元に損害が生じた場合の、賠償責任の範囲を明確にする。
対策2:自社のセキュリティ基盤を再点検・強化する
取引先への対策と同時に、自社の足元を固めることも当然ながら重要です。特に、従来の境界型防御だけでは防ぎきれない巧妙な攻撃に備える必要があります。
エンドポイントセキュリティ(EDR)の導入はなぜ不可欠か
従来のアンチウイルスソフト(EPP)がマルウェアの「侵入」を防ぐことを主目的としているのに対し、EDR(Endpoint Detection and Response)は、万が一PCやサーバー(エンドポイント)への侵入を許してしまった場合に、その「侵入後の不審な挙動」を検知し、迅速な対応を可能にするソリューションです。
サプライチェーン攻撃では、正規の通信を装って侵入してくるケースが多く、EPPだけでは検知が困難です。EDRを導入することで、侵入後のマルウェアの活動や、攻撃者による遠隔操作といった不審な動きをいち早く捉え、被害が拡大する前に対処することができます。
ゼロトラスト・セキュリティモデルへの移行を検討する
「社内ネットワークは安全、社外は危険」という従来の境界型防御の考え方は、もはや通用しません。ゼロトラストは、「すべての通信を信頼しない(Never Trust, Always Verify)」という考え方に基づき、社内外を問わず、全てのアクセスに対して認証・認可を要求するセキュリティモデルです。
ゼロトラストへの移行は一朝一夕にはいきませんが、
- 多要素認証(MFA)の導入
- アクセス権限の最小化
- 通信の常時監視・分析
といった要素を段階的に取り入れていくことで、万が一、サプライチェーンのどこかから侵入されたとしても、攻撃者が内部で自由に活動することを防ぎ、被害を最小限に抑えることができます。
ソフトウェアの脆弱性管理と迅速なアップデート体制の構築
攻撃者は、OSやソフトウェアの公開された脆弱性を常に狙っています。脆弱性情報を迅速に収集し、セキュリティパッチを計画的かつ速やかに適用する体制を構築することが不可欠です。使用しているソフトウェアやIT資産を台帳で管理し、パッチ適用の状況を可視化することが重要です。
対策3:アクセス権限の最小化と厳格な管理を徹底する
従業員やシステムに付与するアクセス権限は、「業務上、本当に必要な最低限の権限(最小権限の原則)」に限定するべきです。不要な権限を与えていると、万が一アカウントが乗っ取られた際に、被害範囲が一気に拡大してしまいます。
- 担当業務に応じた権限設定: 部署や役職で一括りにせず、個々の業務内容に合わせて権限を細かく設定する。
- 特権ID(管理者権限)の厳格な管理: 特権IDの使用は必要最小限に留め、誰が・いつ・何のために使用したのか、全ての操作ログを記録・監視する。
- 定期的な権限の見直し: 異動や退職に伴い、不要になったアカウントや権限は速やかに削除・変更する。
対策4:インシデント発生を想定した対応計画(IRP)を策定・訓練する
どれだけ対策を講じても、サイバー攻撃のリスクをゼロにすることはできません。重要なのは、「インシデントは必ず起こるもの」という前提に立ち、実際に被害が発生した際に、誰が、何を、どのような手順で対応するのかを定めた「インシデント対応計画(IRP: Incident Response Plan)」を事前に策定しておくことです。
IRPには、「発見」「初動対応」「封じ込め」「根絶」「復旧」「事後対応」といったフェーズごとに、具体的な行動手順や、経営層、法務、広報、外部専門家など関係者との連絡体制を明確に定めておきます。そして、策定した計画が絵に描いた餅にならないよう、定期的に訓練(標的型攻撃メール訓練や、机上シミュレーションなど)を実施し、計画の実効性を高めていくことが重要です。
対策5:全従業員を巻き込む!「自分ごと化」させるセキュリティ教育
サプライチェーン攻撃の多くは、従業員が受信した一通の不審なメールから始まります。どんなに高度なセキュリティシステムを導入しても、使う「人」の意識が低ければ、そこが脆弱性となってしまいます。
情報システム担当者だけでなく、経営層から一般従業員まで、全社一丸となってセキュリティ意識を向上させることが不可欠です。
- 役職や業務内容に合わせた教育: 全員に同じ内容を教えるのではなく、経営層には経営リスク、経理担当者にはビジネスメール詐欺、一般従業員には標的型攻撃メールの見分け方など、それぞれの立場に関連の深い内容に特化する。
- 「なぜ危ないのか」を具体的に伝える: 「パスワードは複雑にしましょう」というルールだけを伝えるのではなく、「なぜなら、単純なパスワードだと、このように数秒で破られてアカウントが乗っ取られてしまうからです」と、具体的な脅威や被害事例を交えて説明することで、「自分ごと」として捉えてもらいやすくなります。
- インシデント発生時の報告ルールを徹底: 「怪しいメールを開いてしまった」「見慣れないファイルがある」といった些細なことでも、気軽に情報システム部門に報告・相談できる文化を醸成することが、インシデントの早期発見に繋がります。
これらの対策は、一つひとつがサプライチェーン全体の安全性を高めるための重要なピースです。まずは自社でできることから着実に実行していくことが、巨大な脅威に立ち向かうための第一歩となります。
【万が一に備えて】もしサプライチェーン攻撃の被害に遭ってしまったら?
どれほど入念な対策を講じていても、攻撃を100%防ぎきることは困難です。重要なのは、インシデント発生時にパニックに陥らず、冷静かつ迅速に行動し、被害を最小限に食い止めることです。
被害を最小限に食い止める初動対応フロー
もし、サプライチェーン攻撃の被害(またはその疑い)が発覚した場合、以下のフローに沿って行動することが基本となります。事前に策定したインシデント対応計画(IRP)と照らし合わせながら、落ち着いて対応を進めてください。
【STEP1:被害状況の確認と証拠保全】
- ネットワークからの隔離: 被害が疑われる端末(PCやサーバー)を、まずは物理的にLANケーブルを抜く、またはWi-Fiを切断するなどしてネットワークから隔離し、被害の拡大を防ぎます。(※シャットダウンはメモリ上の証拠が消える可能性があるため、原則として行わない)
- 現状の記録: 画面に表示されているメッセージや、不審なファイルの状況などを、スマートフォンなどで写真に撮って記録します。
- ログの保全: 関連するサーバーやネットワーク機器のログが上書きされて消えてしまわないよう、保全措置を講じます。
【STEP2:関係者への報告・連絡】
- インシデント対応計画(IRP)で定められた報告ルートに従い、直ちに情報システム部門の責任者、および経営層へ第一報を入れます。
- 報告は、「いつ、どこで、何が、どのように」を、現時点で分かっている範囲で簡潔かつ正確に行います。憶測での報告は混乱を招くため避けましょう。
【STEP3:インシデント対応チームの招集と役割分担】
- 情報システム部門、法務、広報、経営層などから構成されるインシデント対応チーム(CSIRTなど)を招集し、対策本部を設置します。
- 誰が指揮を執り、誰が外部との連絡窓口になるのかなど、明確な役割分担を決定します。
【STEP4:外部専門家への支援要請】
- 自社だけでの対応が困難だと判断した場合は、速やかにセキュリティ専門の外部ベンダー(フォレンジック調査会社など)に支援を要請します。早期に専門家の知見を入れることが、迅速な原因究明と復旧への近道です。
関係各所への報告と連携の重要性
サイバー攻撃の被害は、社内だけで解決できる問題ではありません。被害の状況に応じて、関係各所への適切な報告と連携が求められます。
- 警察: ランサムウェアによる脅迫など、犯罪に該当する可能性がある場合は、最寄りの警察署または都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口へ通報・相談します。
- 個人情報保護委員会: 個人データの漏えい等が発生した場合は、個人情報保護法に基づき、個人情報保護委員会への報告および本人への通知が義務付けられています。
- IPA(情報処理推進機構): IPAに被害状況を届け出ることで、技術的な助言を得られたり、他の企業への注意喚起に繋がったりします。
- 取引先・顧客: 自社が原因で取引先や顧客に被害が及ぶ可能性がある場合は、二次被害を防ぐためにも、誠意をもって速やかに状況を報告し、注意を促す必要があります。
インシデント発生時は、隠蔽したいという心理が働きがちですが、対応が遅れれば遅れるほど被害は拡大し、企業の信頼を大きく損なう結果となります。透明性を持ち、関係各所と緊密に連携することが、結果的に被害を最小化し、早期の信頼回復に繋がるのです。
まとめ:サプライチェーン全体の安全を守るために、情シス担当者が果たすべき役割
本記事では、サプライチェーン攻撃の仕組みから具体的な対策、そして万が一の際の対応まで、情報システム担当者が知っておくべき知識を網羅的に解説してきました。
この記事で解説したサプライチェーン攻撃対策の重要ポイント
最後に、本記事の要点を振り返ります。
- サプライチェーン攻撃とは、セキュリティが脆弱な取引先などを踏み台にして、本命のターゲット企業に侵入する攻撃手法である。
- 「自社だけ守る」では不十分。サプライチェーン全体のセキュリティレベルの底上げが不可欠。
- 脅威は身近に存在する。企業規模を問わず、全ての企業が攻撃の起点、または標的になり得る。
- 対策の第一歩は「リスクの可視化」。チェックシートや契約で、取引先のセキュリティ状況を把握する。
- 自社の防御も再強化。EDRやゼロトラストの考え方を取り入れ、多層的な防御を構築する。
- インシデントは起こる前提で備える。事前の対応計画(IRP)と訓練が、被害を最小限に食い止める鍵となる。
サプライチェーン攻撃への対策は、もはや情報システム部門だけの課題ではありません。しかし、その技術的な知見とハブとなる役割から、情シス担当者がリーダーシップを発揮して全社的な取り組みを牽引していくことが、成功の鍵を握っています。
明日から始めるアクションプラン:まずは「取引先リスクの洗い出し」から着手しよう
「やるべきことが多いのは分かったが、どこから手をつければいいのか…」と感じられたかもしれません。
そんなあなたは、まず「自社のサプライチェーンに関わる取引先・委託先をリストアップし、情報の重要度やシステム連携のレベルでランク付けする」ことから始めてみてください。
どの取引先との間で、どのような重要な情報やシステム連携があるのか。そこがもし攻撃されたら、自社にどのような影響が出るのか。まずはこのリスクを洗い出すだけでも、優先的に対策すべき対象が見えてくるはずです。
サプライチェーン全体のセキュリティ強化は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、今日踏み出した小さな一歩が、未来の深刻なインシデントを防ぐ大きな力となります。
弊社では、サプライチェーン攻撃対策に関するご相談や、セキュリティリスクの診断サービスを提供しております。
「取引先のリスク評価をどのように進めればよいか分からない」
「自社のセキュリティ体制に不安がある」
といったお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。専門のコンサルタントが、貴社の状況に合わせた最適な対策プランをご提案します。


