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ランサムウェアだけじゃない!多様化するサプライチェーン攻撃の全貌とリスク対策完全ガイド

目次[非表示]

  1. なぜ今、サプライチェーン攻撃のリスク対策が急務なのか?
  2. 【手口を全解説】ランサムウェアだけではない!多様化するサプライチェーン攻撃の4つの類型
  3. 見過ごしは致命傷に。サプライチェーン攻撃がもたらす3つの深刻なリスク
  4. 【明日から実践】情報システム担当者のためのサプライチェーン攻撃リスク対策 完全ガイド
  5. 【事例で学ぶ】国内外のサプライチェーン攻撃による被害と教訓
  6. まとめ:サプライチェーン全体でセキュリティレベルを引き上げるために

なぜ今、サプライチェーン攻撃のリスク対策が急務なのか?

DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速に伴い、企業活動は自社だけで完結することはなく、開発、製造、販売、運用に至るまで、数多くの外部パートナーとの連携の上に成り立っています。この複雑に絡み合った供給網、すなわち「サプライチェーン」が、今、サイバー攻撃の新たな温床となっていることをご存知でしょうか。

本記事では、多様化・巧妙化するサプライチェーン攻撃の最新手口から、情報システム担当者が明日から実践できる具体的なリスク対策まで、網羅的に解説します。

「うちは大丈夫」が最も危険。自社のセキュリティだけでは守れない時代の到来

「自社のセキュリティ対策は完璧だ」。もしそう考えているなら、その認識こそが最も危険な脆弱性(ぜいじゃくせい)かもしれません。どれだけ自社の防御を固めても、取引先や業務委託先といったサプライチェーン上のセキュリティレベルが比較的低い組織が「踏み台」にされ、そこを経由して自社が攻撃されるケースが後を絶たないからです。

ある日突然、取引先から「おたくの会社名で不審なメールが届いた」と連絡が入る。調査すると、原因は請求書発行システムを委託している外部業者のアカウント乗っ取りだった…。これは決して絵空事ではありません。自社の管理下にない領域から脅威は忍び寄ってくるのです。

サプライチェーン攻撃の恐ろしさは、信頼関係を逆手にとる点にあります。取引先から送られてくる正規のメールやソフトウェアのアップデート通知などを装うため、従来のセキュリティ対策では検知が極めて困難なのです。

ランサムウェア被害の裏で急増する「見えない脅威」とは

サプライチェーン攻撃と聞くと、身代金を要求する「ランサムウェア」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、その裏では、より巧妙で気づかれにくい「見えない脅威」が急増しています。

例えば、ソフトウェアの開発元に侵入し、正規のアップデートファイルにウイルスを混入させる攻撃。ユーザーは正規のアップデートだと思い込み、自らウイルスをインストールしてしまいます。あるいは、広く使われているオープンソースのプログラムに悪意のあるコードを仕込み、それに気づかずに利用した多数の企業が、知らぬ間に情報を盗み出されるといった手口も横行しています。

こうした攻撃は、被害が表面化するまで時間がかかり、いつ、どこから、どのように侵入されたのか特定が難しいという特徴があります。気づいた時には、企業の機密情報や顧客の個人情報が根こそぎ奪われていた、という最悪の事態も起こり得るのです。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024」においても、「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」は組織向けの脅威として第2位にランクインしており、その脅威度の高さがうかがえます。これは単一の組織の問題ではなく、社会全体で取り組むべき喫緊の課題であることを示しています。

出典: IPA「情報セキュリティ10大脅威 2024」

この記事を読めばわかること:攻撃の全体像から具体的な対策まで

この記事を最後までお読みいただくことで、以下のことがわかります。

  • サプライチェーン攻撃の最新手口とそのリスク
  • 攻撃が企業に与える致命的な影響
  • 情報システム担当者が明日から実践すべき具体的な対策ステップ
  • 国内外の被害事例から学ぶべき教訓

自社だけでなく、大切な取引先や顧客を守るためにも、サプライチェーン全体を見据えたセキュリティ対策へのシフトが不可欠です。次のセクションでは、さらに具体的に、多様化する攻撃の手口を詳しく見ていきましょう。

【手口を全解説】ランサムウェアだけではない!多様化するサプライチェーン攻撃の4つの類型

サプライチェーン攻撃は、単一の手口ではありません。攻撃者は企業の防御網をかいくぐるため、様々な侵入経路を狙ってきます。ここでは、攻撃の手口を大きく4つの類型に分け、それぞれのリスクを具体的に解説します。

類型1:ソフトウェア・サプライチェーン攻撃のリスク

私たちが日常的に利用するソフトウェアの「正規のルート」を悪用する、非常に巧妙な攻撃手法です。信頼しているソフトウェアが、気づかぬうちに攻撃の入り口になってしまいます。

開発元・アップデートサーバーへの侵入

これは、ソフトウェアを開発・提供しているベンダー自身を攻撃し、その開発環境やアップデート配信サーバーに侵入する手口です。攻撃者は正規のプログラムやアップデートファイルにマルウェア(悪意のあるプログラム)を混入させます。

ユーザーはベンダーを信頼しているため、何の疑いもなくそのソフトウェアをインストールしたり、アップデートを実行したりします。その結果、正規の行為によって自らマルウェアに感染してしまうのです。この手口は発見が極めて困難で、一度発生すると被害が広範囲に及ぶ傾向があります。

オープンソースライブラリへの悪意あるコード混入

現代のソフトウェア開発では、「オープンソースソフトウェア(OSS)」と呼ばれる、ソースコードが公開され誰でも無償で利用できるライブラリ(部品)を活用するのが一般的です。これにより開発効率は飛躍的に向上しましたが、新たなリスクも生まれました。

攻撃者は、多くの開発者が利用する人気のオープンソースライブラリに、気づかれないように悪意のあるコードを一行だけ追加する、といった攻撃を仕掛けます。そのライブラリを利用して開発されたソフトウェアは、すべてバックドア(裏口)付きということになり、世界中の多くの企業が意図せず危険にさらされることになります。

類型2:ハードウェア・サプライチェーン攻撃のリスク

ソフトウェアだけでなく、PCやサーバー、ネットワーク機器といった物理的なハードウェアの製造・流通過程を狙った攻撃も存在します。

製造・輸送段階での不正なチップ埋め込み

これは、ハードウェアの製造工場や、輸送・保管中の倉庫などで、本来の設計にはない不正なマイクロチップを物理的に埋め込む手口です。このチップは、外部からの遠隔操作を可能にしたり、内部の情報を盗み出したりする機能を持っています。

正規のルートで購入した新品の機器に、最初からスパイ機能が組み込まれている可能性があるのです。物理的な改造であるため、ソフトウェア的なスキャンでは検知することがほぼ不可能です。

ファームウェアの改ざん

ファームウェアとは、ハードウェアを制御するための基本的なソフトウェアのことです。このファームウェアを不正なものに書き換えることで、ハードウェアの動作を乗っ取ります。

例えば、ネットワーク機器のファームウェアが改ざんされると、社内ネットワークを流れる通信がすべて攻撃者に筒抜けになってしまう可能性があります。OSを再インストールしても駆除できないため、非常に厄介な攻撃です。

類型3:サービス・サプライチェーン攻撃(委託先経由)のリスク

自社の情報システム運用を外部の専門業者に委託するケースは珍しくありません。しかし、その委託先のセキュリティ対策が不十分だと、そこが攻撃の侵入口となってしまいます。

MSP/MSSP事業者への攻撃と顧客への侵入

MSP(マネージドサービスプロバイダー)やMSSP(マネージドセキュリティサービスプロバイダー)は、複数の顧客企業のシステム運用やセキュリティ監視を代行しています。彼らは顧客のシステムへアクセスするための「特権ID」を保有しているため、攻撃者にとって格好の標的となります。

もしMSP/MSSP事業者が攻撃を受け、特権IDが奪われると、攻撃者はそのIDを使って、正規の運用担当者になりすまし、顧客である複数の企業システムへいとも簡単に侵入できてしまいます。

クラウドサービスの設定不備を狙った攻撃

AWSやAzure、Google Cloudといったクラウドサービスの利用は当たり前になりましたが、その設定や権限管理が適切に行われていないケースが散見されます。

特に、クラウド環境の構築・運用を外部業者に委託している場合、その業者の担当者が設定ミスを犯すと、本来は非公開であるべき情報がインターネット上から誰でも閲覧できる状態になってしまうことがあります。攻撃者は常にこうした設定不備を探しており、一度見つかれば重要なデータの漏洩に直結します。

類型4:人・プロセスを狙った攻撃のリスク

最先端の技術だけでなく、人間の心理的な隙や業務プロセスの穴を突く、古典的かつ効果的な攻撃も依然として多く存在します。

委託先従業員を狙ったソーシャルエンジニアリング

ソーシャルエンジニアリングとは、技術的な手段ではなく、人の心理的な隙や油断を利用して情報を盗み出す手法です。

例えば、委託先の従業員に対して、情報システム担当者を装って電話をかけ、「システムメンテナンスのため、パスワードを教えてください」と聞き出すような手口です。また、標的のSNSを調査し、趣味や交友関係を把握した上で巧妙なフィッシングメールを送りつけ、ウイルスに感染させるケースもあります。

退職者アカウントの不正利用

業務委託先の従業員が退職した後も、その従業員が使っていたアカウントが削除されずに放置されていることがあります。これは非常に危険な状態です。

攻撃者は、何らかの方法でこの放置されたアカウント情報を入手し、元従業員になりすましてシステムにログインします。すでに退職しているため、不審な挙動があっても気づかれにくいという側面があり、長期間にわたって潜伏され、情報を盗み続けられるリスクがあります。

これらの手口を見てわかるように、攻撃者はあらゆる角度から侵入を試みます。では、これらの攻撃が成功した場合、企業にはどのような悲劇が待ち受けているのでしょうか。次の章で詳しく解説します。

見過ごしは致命傷に。サプライチェーン攻撃がもたらす3つの深刻なリスク

サプライチェーン攻撃の被害は、単なる情報漏洩や一時的なシステムダウンでは済みません。企業の存続そのものを脅かす、深刻かつ複合的なリスクへと発展する可能性があります。ここでは、代表的な3つのリスクについて解説します。

リスク1:事業継続を揺るがす甚大な金銭的被害と業務停止

サプライチェーン攻撃がもたらす最も直接的なダメージは、金銭的被害と業務停止です。

  • ランサムウェアによる身代金: システムやデータを暗号化され、復旧のために高額な身代金を要求されます。支払ったとしても、データが元に戻る保証はどこにもありません。
  • システムの復旧コスト: 暗号化されたシステムの復旧や、マルウェアの駆除、再発防止策の導入には、専門家への依頼費用など、莫大なコストがかかります。
  • 生産・営業活動の停止による逸失利益: 基幹システムや工場の生産ラインが停止すれば、その間の売上はゼロになります。ある国内の自動車部品メーカーがランサムウェア被害に遭った際には、親会社である大手自動車メーカーの国内全工場が稼働停止に追い込まれ、数万台の生産に影響が出た事例は記憶に新しいでしょう。

このように、直接的な被害だけでなく、サプライチェーン全体に影響が波及し、ビジネス機会の損失は計り知れない規模になるのです。

リスク2:顧客・取引先からの信頼失墜とブランドイメージの毀損

目に見える金銭的被害以上に深刻なのが、信頼の失墜です。

  • 取引停止・契約解除: 「あの会社はセキュリティ管理が甘い」という評判が立てば、重要な取引を打ち切られる可能性があります。特に、自社が原因で取引先にまで被害が及んだ場合、その関係修復は極めて困難です。
  • 顧客離れ: 個人情報漏洩などのインシデントを起こせば、顧客は一斉に離れていきます。一度失った信頼を取り戻すには、長い年月と多大な努力が必要です。
  • ブランドイメージの低下: メディアでインシデントが報道されれば、長年かけて築き上げてきたブランドイメージは一瞬で地に落ちます。これは、株価の下落や、将来的な採用活動への悪影響など、様々な形で経営に響いてきます。

デジタル社会において、企業の「信頼」は最も重要な資産の一つです。サプライチェーン攻撃は、この資産を根底から破壊する力を持っているのです。

リスク3:機密情報・個人情報の漏洩による法的責任と賠償問題

万が一、顧客の個人情報や取引先の機密情報を漏洩させてしまった場合、企業は法的な責任を問われることになります。

  • 個人情報保護法に基づく措置命令・罰金: 2022年に施行された改正個人情報保護法では、企業の責務がより厳格化され、違反した際の罰金額も大幅に引き上げられました。漏洩件数が大きい場合、数億円規模の課徴金を命じられる可能性もあります。
  • 被害者への損害賠償: 漏洩した情報が悪用され、被害者に金銭的な被害が生じた場合、集団訴訟に発展し、多額の損害賠償を請求されるリスクがあります。
  • 契約違反による違約金: 取引先との契約にセキュリティに関する条項が含まれていた場合、インシデントの発生が契約違反とみなされ、違約金を請求されることも考えられます。

これらのリスクは、どれか一つだけが発生するわけではありません。多くの場合、3つのリスクは連鎖的に発生し、複合的なダメージとなって企業に襲いかかります。

「うちは大丈夫」という根拠のない自信が、いかに危険なものであるか、お分かりいただけたでしょうか。では、これらの致命傷を避けるために、情報システム担当者は具体的に何をすべきなのでしょうか。次の章では、明日から実践できる対策を5つのステップに分けて徹底解説します。

【明日から実践】情報システム担当者のためのサプライチェーン攻撃リスク対策 完全ガイド

サプライチェーン攻撃のリスクを前に、何から手をつければよいか分からない、と感じる方も多いでしょう。ここでは、情報システム担当者が主体となって進めるべき対策を、現実的な5つのステップに分けて具体的に解説します。

ステップ1:現状把握とリスクの可視化

対策の第一歩は、自分たちがどのようなサプライチェーンの中にいるのか、そしてどこにリスクが潜んでいるのかを正確に把握することです。

サプライヤー/委託先の洗い出しとリスク評価

まずは、自社が製品やサービスの提供にあたって、どのような企業と取引があるのかをすべて洗い出します。

  • 直接取引のある企業: 部品供給元、製造委託先、物流業者、販売代理店など
  • 業務委託している企業: システム開発・運用会社、データセンター、クラウドベンダー、保守サービス会社、コンサルタント、士業(弁護士、会計士)など

リストアップが完了したら、それぞれの委託先に対して、「どのような情報を」「どのシステムで」扱っているかを整理し、情報漏洩やシステム停止が発生した場合の事業への影響度を評価します。特に、機密情報や個人情報へのアクセス権を持つ委託先は、リスクが高いと判断し、優先的に対策を進める必要があります。

自社が利用するソフトウェア・サービスの棚卸し(SBOMの活用)

次に、自社のシステム内でどのようなソフトウェアやクラウドサービスが利用されているかを正確に把握します。

ここで有効なのが「SBOM(Software Bill of Materials:ソフトウェア部品表)」の活用です。SBOMは、ソフトウェアがどのようなコンポーネント(オープンソースライブラリなど)で構成されているかを示す一覧表です。

SBOMを作成・管理することで、あるライブラリに新たな脆弱性が発見された際に、「自社のどのシステムが影響を受けるのか」を即座に特定し、迅速な対応が可能になります。これは、前述した「オープンソースライブラリへの悪意あるコード混入」のような攻撃に対する非常に有効な対策となります。

ステップ2:契約・規程によるセキュリティ統制

リスクを可視化できたら、次は契約や規程といったルールによって、サプライチェーン全体のセキュリティレベルを統制していきます。

委託先選定基準の厳格化とセキュリティ要件の明記

新規に取引先や委託先を選定する際には、価格や品質だけでなく、セキュリティ対策の実施状況を必須の評価項目とすべきです。

  • ISMS(ISO27001)やプライバシーマークなどの第三者認証の取得状況を確認する。
  • セキュリティに関する質問票(チェックシート)への回答を求め、対策レベルを評価する。
  • 契約書に、遵守すべきセキュリティ要件(例:アクセス管理の徹底、脆弱性への迅速な対応、従業員教育の実施など)を具体的に明記し、合意を得る。

インシデント発生時の報告体制と連携フローの確立

万が一、委託先でセキュリティインシデントが発生した場合に、迅速かつ正確に状況を把握するための体制を事前に構築しておくことが重要です。

契約書には、「インシデント発生(またはその疑い)を検知した場合、24時間以内に自社へ報告すること」といった報告義務を明確に定めておきましょう。また、報告を受ける窓口は誰か、受けた情報を誰にエスカレーションし、どのような調査を共同で行うのか、といった連携フローをあらかじめ双方で確認しておくことが、有事の際の被害拡大を防ぎます。

ステップ3:技術的対策による防御力の強化

ルール作りと並行して、テクノロジーの力で防御力を高めることも不可欠です。

ゼロトラスト・アーキテクチャへの移行

従来の「社内は安全、社外は危険」という境界型防御の考え方は、もはや通用しません。サプライチェーン攻撃のように、信頼関係を悪用した侵入が多発しているからです。

そこで重要になるのが「ゼロトラスト」という考え方です。これは、「すべての通信を信頼しない(ゼロトラスト)」ことを前提に、社内・社外を問わず、すべてのアクセス要求に対して「本当に正当なアクセスか?」を都度検証するアプローチです。これにより、万が一、委託先のアカウントが乗っ取られても、重要な情報資産への不正なアクセスを防ぐことができます。

特権ID管理とアクセス制御の徹底

システムの管理者権限を持つ「特権ID」は、攻撃者に奪われると甚大な被害につながるため、特に厳格な管理が求められます。

  • 最小権限の原則: 担当者には、業務に必要な最低限の権限のみを付与する。
  • 申請・承認フローの整備: 特権IDの使用はすべて事前申請・承認制とし、作業内容と時間を限定する。
  • 操作ログの監視: 特権IDによるすべての操作ログを取得・保管し、不審な操作がないか定期的にレビューする。

これらの管理を徹底することで、内部不正や、乗っ取られたアカウントによる被害を最小限に抑えます。

EDR/XDRによるサプライヤー経由の不審な挙動の検知

従来のアンチウイルスソフト(EPP)が「既知のウイルスの侵入を防ぐ」ことを目的としているのに対し、EDR(Endpoint Detection and Response)はPCやサーバー(エンドポイント)内の挙動を常時監視し、「侵入された後の不審な動き」を検知・対応することに特化しています。

さらに、EDRの検知範囲をネットワークやクラウドにまで広げたXDR(Extended Detection and Response)を導入すれば、委託先の端末から自社のクラウドサーバーへの不審なアクセスなど、サプライチェーンを横断する攻撃の兆候をより早期に捉えることが可能になります。

ステップ4:継続的な監視と脆弱性管理

一度対策を導入して終わり、ではありません。脅威は常に変化するため、継続的な監視と改善が不可欠です。

サプライヤーのセキュリティ状況の定期的な監査

契約時に確認したセキュリティ対策が、その後も適切に維持・運用されているかを定期的にチェックする仕組みが必要です。

  • セキュリティチェックシートを年に1回、あるいは半年に1回、再提出してもらう。
  • 特に重要な委託先に対しては、リモートまたは現地での監査を実施する。
  • 監査結果で問題が見つかった場合は、改善計画を提出させ、その進捗を管理する。

脆弱性情報の収集と迅速なパッチ適用体制の構築

自社および委託先が利用しているソフトウェアや機器の脆弱性情報を常に収集し、セキュリティパッチ(修正プログラム)が公開されたら、迅速に適用する体制を構築します。脆弱性を放置することは、攻撃者に侵入の扉を開けているのと同じです。JPCERT/CCやIPAなどの公的機関から発信される情報を定期的にチェックし、自社への影響を判断して対応するフローを確立しましょう。

ステップ5:インシデント発生を前提とした体制構築

どれだけ万全な対策を講じても、サイバー攻撃のリスクを完全にゼロにすることはできません。そのため、「インシデントはいつか必ず起こる」という前提に立ち、事後対応の体制を整えておくことが極めて重要です。

サプライチェーン攻撃を想定したインシデント対応計画(IRP)の策定

サプライチェーンのどこかでインシデントが発生した場合に、「誰が」「何を」「どの順番で」行うのかを定めたインシデント対応計画(IRP:Incident Response Plan)を策定します。

この計画には、被害の特定、拡大防止、復旧、原因調査、関係各所(経営層、法務、広報、委託先、監督官庁、警察など)への報告といった一連の流れを時系列で具体的に記述しておく必要があります。

定期的な机上演習と対応フローの見直し

計画は作っただけでは意味がありません。「委託先のA社からランサムウェアに感染したと連絡が入る」といった具体的なシナリオを想定し、関係者で対応をシミュレーションする「机上演習」を定期的に実施しましょう。

演習を行うことで、計画の不備や担当者の役割分担の曖昧さなどが浮き彫りになります。その結果を元に対応フローを継続的に見直し、改善していくことが、いざという時に冷静かつ迅速に行動できる組織能力を育むのです。

【事例で学ぶ】国内外のサプライチェーン攻撃による被害と教訓

理論だけでなく、実際に起きた事例から学ぶことは非常に重要です。ここでは、サプライチェーン攻撃の脅威を具体的に理解するために、国内外の代表的な3つの事例と、そこから得られる教訓を解説します。

事例1:大手ソフトウェア企業のアップデートを悪用した大規模攻撃

  • 概要: ある大手IT管理ソフトウェア企業の製品アップデートサーバーがサイバー攻撃を受け、正規のアップデートファイルにバックドアが仕込まれました。世界中で18,000社以上がこのアップデートを適用してしまい、その中から特定の標的(政府機関や大手企業)が選ばれ、さらなる攻撃を受けました。
  • 攻撃類型: ソフトウェア・サプライチェーン攻撃(開発元・アップデートサーバーへの侵入)
  • 教訓: 「信頼しているソフトウェアベンダーだから安全」という前提はもはや成り立ちません。 正規のアップデートでさえも攻撃の経路になり得ることを認識し、ゼロトラストの考えに基づき、たとえ正規の通信であってもその挙動を監視する仕組み(EDR/XDRなど)が重要になります。また、自社が利用するソフトウェアの構成を把握するSBOMの管理も、こうした攻撃への対策として有効です。

事例2:クラウドサービス事業者への侵入による広範囲な顧客被害

  • 概要: 複数の企業のITインフラを管理するマネージドサービスプロバイダー(MSP)がサイバー攻撃を受け、顧客システムを管理するための認証情報が窃取されました。攻撃者はこの情報を悪用し、MSPの顧客である多数の企業にランサムウェアを拡散させ、広範囲にわたる業務停止を引き起こしました。
  • 攻撃類型: サービス・サプライチェーン攻撃(MSP/MSSP事業者への攻撃)
  • 教訓: IT運用を外部に委託することは効率的ですが、委託先のセキュリティレベルが自社のセキュリティレベルに直結するというリスクを常に意識しなければなりません。委託先を選定する際は、セキュリティ対策の実施状況を厳格に評価し、契約後も定期的な監査を行うことが不可欠です。また、委託先に渡す権限は必要最小限に留め、その操作ログを自社でも監視する体制が望まれます。

事例3:委託先IT管理会社の脆弱性を突かれた国内企業のランサムウェア被害

  • 概要: ある国内企業グループが、ネットワークの保守・運用を委託していた海外子会社のIT管理会社経由でサイバー攻撃を受けました。IT管理会社が使用していたリモート接続機器の脆弱性を突かれて侵入され、そこを踏み台として国内の親会社やグループ会社のサーバーがランサムウェアに感染。大規模なシステム障害と情報漏洩の可能性が発表されました。
  • 攻撃類型: サービス・サプライチェーン攻撃(委託先経由)
  • 教訓: グローバルに事業を展開する企業にとって、海外拠点やその委託先のセキュリティ管理は大きな課題です。物理的な距離や言語の壁があり、ガバナンスを効かせにくい海外拠点がサプライチェーンの弱点となり得ます。本社主導でグループ全体のセキュリティポリシーを策定・徹底し、海外拠点を含めた脆弱性管理や監視体制を構築することの重要性を示唆する事例です。

これらの事例は、いずれも「自社だけでは防ぎきれない」攻撃であり、サプライチェーン全体で対策を講じる必要性を強く物語っています。

まとめ:サプライチェーン全体でセキュリティレベルを引き上げるために

本記事では、多様化するサプライチェーン攻撃の手口から、それがもたらす深刻なリスク、そして情報システム担当者が実践すべき具体的な対策までを網羅的に解説してきました。もはや「対岸の火事」ではなく、すべての企業にとって喫緊の経営課題であることをご理解いただけたかと思います。

サプライチェーン攻撃のリスク対策で押さえるべき重要ポイントの再確認

最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。

  • 自社だけ守っても無意味: セキュリティ対策は、取引先や委託先を含めたサプライチェーン全体で考える必要があります。
  • 攻撃手口は多様化している: ランサムウェアだけでなく、ソフトウェア、ハードウェア、サービス、人など、あらゆる経路が狙われます。
  • リスクは複合的に発生する: 金銭的被害、業務停止、信頼失墜、法的責任が連鎖し、企業の存続を脅かします。
  • 対策は5つのステップで: 「①現状把握」「②契約・規程」「③技術的対策」「④継続的監視」「⑤インシデント対応体制」を計画的に進めることが重要です。
  • インシデントは起こるものと心得る: 防御だけでなく、インシデント発生を前提とした対応計画(IRP)と定期的な演習が被害を最小限に抑えます。

貴社の状況に合わせた、より詳細なリスク分析や具体的なソリューションにご興味はございませんか?お気軽にお問い合わせください。

古田 清秀(ふるた きよひで)
古田 清秀(ふるた きよひで)
InfiniCore株式会社 ソリューションサービス事業本部 責任者 新卒以来30年以上IT業界に在籍し、サイバーセキュリティの最前線で活躍する専門家です。 ネットワークインフラ構築の営業を通じてセキュリティの重要性を痛感。前職では新規セキュリティサービスのプロジェクトマネージャー(PM)として、その立ち上げを成功に導きました。 長年の経験と深い知見を活かし、複雑なセキュリティ課題を分かりやすく解説。企業の安全なデジタル変革を支援するための情報発信を行っています。