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IP-VPNとインターネットVPN、結局どっちを選ぶべき?コストとセキュリティを情シス視点でわかりやすく徹底比較

目次[非表示]

  1. IP-VPNかインターネットVPNか?情シス担当者が知るべきVPNの基礎と選び方
  2. 【今さら聞けない】情シス担当者のためのVPN基礎知識をわかりやすく解説
  3. 【本題】IP-VPNとインターネットVPNの5大項目を徹底比較
  4. 【結論】自社の状況別!最適なVPNはこう選ぶ
  5. VPN導入で失敗しないためのベンダー選定3つのチェックポイント
  6. VPNに関する情シスのよくある質問(FAQ)
  7. まとめ:自社の要件を整理し、最適なVPNでセキュアな事業環境を構築しよう

IP-VPNかインターネットVPNか?情シス担当者が知るべきVPNの基礎と選び方

はじめに:多様化する働き方とVPNの重要性

ハイブリッドワークやリモートワークが当たり前の選択肢となった現代。情報システム担当者の皆様は、場所を問わない柔軟な働き方を支える一方、かつてないほど複雑化・巧妙化するサイバー攻撃から会社の情報資産をいかに守るか、という大きな課題に直面しているのではないでしょうか。

オフィスという物理的な「境界」が曖昧になった今、社外から社内ネットワークへの安全なアクセス経路を確保する技術、VPN(Virtual Private Network)の重要性は日に日に増しています。しかし、一口にVPNと言っても、その種類は様々です。特に企業で利用されるVPNは、「IP-VPN」と「インターネットVPN」の2つが主流ですが、この2つの違いを明確に説明できる担当者は意外と少ないかもしれません。

パーソル総合研究所の調査(2025年7月)によると、正規雇用者のテレワーク実施率は22.5%と報告されており、働き方が多様化した状態が定着していることがうかがえます。このような状況下で、事業継続性とセキュリティを両立させるネットワークインフラの構築は、情シス部門にとって喫緊の課題と言えるでしょう。

出典: パーソル総合研究所「テレワークに関する調査」

コスト、セキュリティ、運用負荷。これらを天秤にかけ、自社に最適なVPNをどう選定すればよいのか。本記事では、多忙な情報システム担当者の皆様が、自信を持ってVPN選定の舵取りを行えるよう、その判断軸をわかりやすく解説します。

本記事でわかること:自社に最適なVPN選定の判断軸が明確になる

本記事を最後までお読みいただくことで、以下の点が明確になります。

  • VPNの基本的な仕組み(トンネリング・暗号化)の直感的な理解
  • 「IP-VPN」と「インターネットVPN」の決定的かつ本質的な違い
  • セキュリティ、コスト、品質など5つの重要項目における両者の徹底比較
  • 自社の状況や優先順位に応じた、最適なVPNの選び方
  • VPN導入で失敗しないための、ベンダー選定における3つのチェックポイント

技術的な詳細に寄りすぎず、情シス担当者として知っておくべき「勘所」にフォーカスして解説を進めます。ぜひ、貴社のネットワーク戦略を検討する上での羅針盤としてご活用ください。

【今さら聞けない】情シス担当者のためのVPN基礎知識をわかりやすく解説

まずは基本の確認から始めましょう。「VPNとは何か?」を改めて整理し、なぜ今、情シス部門にとってVPNが不可欠なコンポーネントとなっているのかを解説します。

VPNとは?インターネット上に構築する「仮想的な専用線」

VPNとは「Virtual Private Network」の略で、日本語では「仮想専用線」と訳されます。

簡単に言えば、多くの人が行き交う公衆のインターネット上に、認証された特定の利用者だけが通れる「仮想的な専用トンネル」を構築し、安全にデータをやり取りする技術のことです。物理的な専用線とは異なり、既存のインターネット回線などを利用して仮想的に構築するため、コストを抑えながら高いセキュリティを実現できるのが大きな特徴です。

VPNの心臓部:「トンネリング」と「暗号化」の仕組みを身近な例で理解する

VPNの安全性を支えているのが、「トンネリング」と「暗号化」という2つのコア技術です。

  • トンネリング:
    これは、送信するデータ全体を、別のプロトコル(通信ルール)で「カプセル化」する技術です。外部からは中身が見えない、特別なトンネル(通路)を形成するイメージです。これにより、公衆のインターネット上でも、あたかも専用線のように直接通信しているかのような状態を作り出します。

  • 暗号化:
    トンネルの中を通るデータそのものを、第三者には解読できないように複雑なルールで変換する技術です。たとえ何らかの方法でトンネル内のデータを覗き見されたとしても、暗号を解く「鍵」がなければ、意味のない文字列にしか見えません。

郵便物に例えるなら、「トンネリング」は中身が見えない頑丈なジュラルミンケースに入れること「暗号化」はその手紙自体を解読不能な暗号で書くこと、とイメージすると分かりやすいでしょう。この二重の防御によって、VPNは通信の機密性と完全性を担保しているのです。

なぜ今、情シス部門にとってVPNが不可欠なのか?

リモートワークの普及は、企業のセキュリティ境界をオフィス内部から従業員の自宅、さらには外出先のカフェにまで広げました。この「境界線の消失」は、サイバー攻撃者にとって格好の攻撃対象となります。

実際に、VPN機器の脆弱性を狙ったサイber攻撃は後を絶ちません。

警察庁の報告によると、令和6年(2024年)上半期に国内で確認されたランサムウェア被害のうち、感染経路が特定されたものの約82%が、VPN機器やリモートデスクトップからの侵入でした。これは、外部からのアクセスポイントであるVPNが、いかに攻撃者から狙われやすいかを示しています。

出典: 警察庁「令和6年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」

このような状況下で、VPNはもはや単なる「リモートアクセスツール」ではありません。ゼロトラストセキュリティへの移行が叫ばれる中でも、社内リソースへのアクセス制御を行う重要なコンポーネントであり、企業のネットワークセキュリティを支える「生命線」の一つなのです。だからこそ、その仕組みを正しく理解し、適切に選定・運用することが、情シス部門の重要な責務となっています。

企業がVPNを導入する3つの主な目的

企業がVPNを導入する目的は、主に以下の3つに集約されます。

目的1:安全なリモートワーク環境の実現

最も代表的な目的です。従業員が自宅や外出先から会社のPCやスマートフォンを使用する際、VPNを経由して社内ネットワークに接続することで、オフィスにいるのと同じように、安全にファイルサーバーや業務システムにアクセスできます。通信が暗号化されているため、カフェなどの公衆Wi-Fiを利用する場合でも、情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。

目的2:複数拠点間のセキュアなデータ連携

本社と支社、あるいはデータセンター間など、物理的に離れた複数の拠点を結ぶ際にもVPNは活用されます。各拠点にVPNゲートウェイと呼ばれる機器を設置し、拠点間をVPNで常時接続(サイト間VPN)することで、あたかも一つのLAN(Local Area Network)であるかのように、安全かつシームレスなデータ連携が可能になります。

目的3:クラウドサービスへの安全なアクセス経路確保

AWSやMicrosoft Azureといったパブリッククラウド上に構築した自社のシステム(IaaS/PaaS)へ接続する際にも、VPNは重要な役割を果たします。クラウド環境と自社拠点をVPNで接続することで、インターネット経由でありながら閉域網に近いセキュアなアクセス経路を確保し、クラウド上のサーバーを安全に運用することができます。

【本題】IP-VPNとインターネットVPNの5大項目を徹底比較

ここからが本記事の核心です。企業のVPN選定において、最も重要な選択肢となる「IP-VPN」と「インターネットVPN」。この2つは何が異なり、どちらを選ぶべきなのか。5つの比較ポイントを通じて、その違いを徹底的に解き明かしていきます。

比較の前に:それぞれのVPNの仕組みの違いとは?

比較に入る前に、両者の最も根本的な違いである「通信経路」について理解しておきましょう。

IP-VPN:通信事業者の「閉域網」を利用する高信頼性モデル

IP-VPNは、通信事業者が独自に構築・管理している専用のIPネットワーク(閉域網)を利用するVPNサービスです。この閉域網は、通常のインターネットとは物理的・論理的に完全に分離されています。

高速道路に例えるなら、契約者だけが通行できる、渋滞や事故の影響を受けにくい「専用レーン」のようなものです。不特定多数のユーザーが出入りするインターネットとは切り離されているため、盗聴やサイバー攻撃といったリスクが極めて低く、高いセキュリティと安定した通信品質を確保できるのが最大の特長です。

インターネットVPN:公衆の「インターネット」を利用する高コスト効率モデル

一方、インターネットVPNは、私たちが日常的に利用している公衆の「インターネット」を通信経路として利用します。拠点間にVPNゲートウェイ機器を設置し、インターネット上に暗号化された仮想トンネルを構築することで、安全な通信を実現します。

こちらは高速道路の「一般レーン」を利用するイメージです。誰でも利用できる回線を使うため、コストを安く抑えられるのが最大のメリットです。ただし、通信速度や品質は他の利用者の影響を受ける「ベストエフォート型」であり、セキュリティもインターネット経由であることのリスクを前提とした対策が必要になります。

徹底比較表:IP-VPN vs インターネットVPN

比較項目

IP-VPN

インターネットVPN

セキュリティ

◎ 非常に高い (閉域網を利用)

△~○ (暗号化で対策するが公衆網のリスクは残る)

コスト

× 高い (初期費用・月額費用)

◎ 安い (既存の回線を利用可能)

通信速度・品質

◎ 非常に安定 (帯域保証型が多い)

△ 不安定 (ベストエフォート型が多い)

拡張性・柔軟性

△ 時間がかかる (拠点追加は要工事・契約)

◎ 高い (設定変更で迅速に対応可能)

導入・運用の手間

◎ 容易 (通信事業者のサポートが手厚い)

× 煩雑 (自社での設計・構築・運用スキルが必要)

では、各項目をさらに詳しく見ていきましょう。

比較ポイント1:セキュリティ|最も重要な違いは「閉域網」か「公衆網」か

IP-VPNの強み:通信経路が物理的に分離された高い安全性

セキュリティを最優先するならば、IP-VPNに軍配が上がります。最大の理由は、前述の通り、通信経路がインターネットから完全に分離された「閉域網」であることです。

  • 盗聴・改ざんのリスクが極めて低い: 契約者以外の通信が流れないため、第三者によるデータの盗聴や改ざんのリスクを原理的に排除できます。
  • DDoS攻撃などの影響を受けにくい: インターネット全体が影響を受けるような大規模なサイバー攻撃(DDoS攻撃など)の被害に遭う可能性が低い点も大きなメリットです。

個人情報や決済情報、研究開発データといった機密性の高い情報を扱う企業にとって、この「閉じられたネットワーク」がもたらす安心感は、何物にも代えがたい価値を持ちます。

インターネットVPNの懸念点:インターネット経由ゆえのリスクと対策

インターネットVPNも、IPsecなどの強力なプロトコルで通信を暗号化するため、基本的なセキュリティは確保されています。しかし、通信経路が公衆のインターネットである以上、以下のようなリスクは常に念頭に置く必要があります。

  • VPNゲートウェイが攻撃対象になる: インターネットに接続されたVPN機器の脆弱性を突かれ、不正侵入の足がかりにされるリスクがあります。
  • 設定ミスによる情報漏洩: 暗号化の設定が不十分であったり、認証が甘かったりすると、セキュリティ強度が著しく低下します。

これらのリスクを軽減するためには、VPN機器のファームウェアを常に最新の状態に保つ、強固なパスワードポリシーを適用する、不正侵入検知システム(IDS/IPS)を併用するなど、情シス部門による継続的かつ適切な運用管理が不可欠です。

比較ポイント2:コスト|初期費用とランニングコストを比較

IP-VPN:高品質だが高コスト。価格の内訳は?

IP-VPNは、高品質なサービスと引き換えにコストが高くなる傾向があります。

  • 初期費用: 閉域網への接続工事などが必要になるため、数万円~数十万円の初期費用がかかります。
  • 月額費用: 契約する帯域や拠点数に応じて、数万円~数百万円のランニングコストが発生します。価格の内訳は、主に閉域網の利用料と、手厚い運用保守サポートの費用です。

高品質な専用インフラと、24時間365日の監視・保守サービスを「購入する」というイメージに近いでしょう。

インターネットVPN:低コストで導入可能。ただし注意点も

インターネットVPNの最大の魅力は、そのコスト効率の高さです。

  • 初期費用: 拠点ごとにVPNゲートウェイ機器(数万円~)を購入・設置する費用が主です。
  • 月額費用: 基本的には既存のインターネット回線(光ブロードバンドなど)の利用料のみで、追加コストはかからない場合が多いです。

ただし、「安い」という理由だけで飛びつくのは禁物です。VPN機器の選定、設計、構築、そして障害発生時の対応まで、すべて自社の責任とリソースで行う必要があります。これらの目に見えない人件費(運用コスト)を考慮に入れると、必ずしも「格安」とは言えないケースもあります。

比較ポイント3:通信速度と品質|安定性を求めるならどちら?

IP-VPN:帯域保証(ギャランティ型)で安定した通信を実現

IP-VPNの多くは、契約時に定めた通信速度を保証する「帯域保証(ギャランティ型)」のサービスを提供しています。

これにより、他のユーザーの利用状況に左右されることなく、常に安定した通信速度と品質が確保されます。VoIP(IP電話)やビデオ会議、基幹システムへのアクセスなど、通信の遅延や途絶がビジネスに深刻な影響を与えるような用途には、IP-VPNが最適です。

インターネットVPN:ベストエフォート型が多く、速度は環境に依存

インターネットVPNが利用するインターネット回線は、通信速度を保証しない「ベストエフォート型」が一般的です。これは「最大限努力はしますが、速度は保証しません」という方式です。

そのため、地域の利用者数や時間帯によって通信速度が大きく変動することがあります。「夕方になるとビデオ会議がカクカクする」「月末のデータ送信に時間がかかる」といった事態が発生する可能性があり、通信品質の安定性という点ではIP-VPNに劣ります。

比較ポイント4:拡張性と柔軟性|拠点追加や設定変更のしやすさ

IP-VPN:拠点追加には時間とコストがかかる場合も

IP-VPNは安定している反面、柔軟性には欠ける側面があります。

  • 拠点追加: 新たな拠点をネットワークに追加する場合、通信事業者への申し込みと回線工事が必要となり、開通までに数週間~数ヶ月のリードタイムがかかることがあります。
  • 設定変更: 帯域の変更やルーティングの変更など、ネットワーク構成を変更する際も、事業者への申請が必要で、迅速な対応が難しい場合があります。

大規模で固定的な拠点網を長期間運用するのに適したモデルと言えます。

インターネットVPN:契約・設定変更が比較的容易でスピーディ

インターネットVPNは、拡張性と柔軟性の高さが強みです。

  • 拠点追加: 新しい拠点でインターネット回線さえ用意できれば、VPN機器を設定するだけで、短期間(最短1日~)でネットワークに追加できます。
  • 設定変更: ネットワーク構成の変更も、情シス担当者がVPN機器の設定を直接変更することで、迅速かつ柔軟に対応できます。

ビジネスの成長に合わせて、拠点の新設・移転・閉鎖が頻繁に発生する企業や、クラウドサービスを多用するような動的なネットワーク環境に適しています。

比較ポイント5:導入・運用の手間|自社のリソースで対応可能か

IP-VPN:通信事業者の手厚いサポートが期待できる

IP-VPNは、通信事業者がネットワークの設計、構築、監視、保守までを一括して提供するマネージドサービスとして提供されることがほとんどです。

  • 導入時: 専門のエンジニアが要件定義から設計・構築までをサポートしてくれます。
  • 運用時: 24時間365日の監視体制が敷かれており、障害発生時には事業者側で検知・復旧対応を行ってくれるため、情シス担当者の運用負荷は大幅に軽減されます。

ネットワーク専門の人材が不足している企業でも、安心して高品質なネットワークを維持できるのが大きなメリットです。

インターネットVPN:自社での設定・管理スキルが求められる

インターネットVPNは、その自由度の高さと引き換えに、導入から運用までの全責任を自社で負う必要があります。

  • 導入時: どのインターネット回線を選ぶか、どのVPN機器が最適か、どのようなネットワーク設計(IPアドレス設計、ルーティングなど)にするか、すべて自社で判断・構築しなければなりません。
  • 運用時: 障害が発生した場合、原因が回線にあるのか、VPN機器にあるのか、あるいは設定ミスなのか、自ら切り分けを行い、対処する必要があります。

これらの業務を遂行するには、ネットワークに関する高度な知識とスキルを持つ人材が社内にいることが前提となります。

【結論】自社の状況別!最適なVPNはこう選ぶ

これまでの比較を踏まえ、どのような企業にどちらのVPNが適しているのか、具体的な企業像とともに結論をまとめます。

IP-VPNがおすすめな企業の特徴

機密性の高い情報を扱い、セキュリティを最優先する企業

金融機関、医療機関、官公庁、法律事務所など、顧客の個人情報や国家機密、知的財産といった、漏洩が許されない重要情報を取り扱う企業。インターネットから隔離された閉域網のセキュリティは、事業継続の根幹を支える上で不可欠です。

安定した通信品質が不可欠な基幹システムを運用する企業

ERPや生産管理システム、大規模なデータベースなど、わずかな通信遅延や瞬断も許されない基幹システムを複数拠点間で利用している製造業や大手企業。帯域保証による安定した通信は、業務の安定稼働を担保します。

全國に多数の拠点を持ち、手厚い運用サポートを求める企業

全国に支社や店舗を展開しているが、IT専門の担当者が本社にしかいない、あるいは人員が限られている企業。通信事業者による一元的な導入・運用サポートにより、情シス部門は本来のコア業務に集中できます。

インターネットVPNがおすすめな企業の特徴

コストを最優先し、スピーディに導入したいスタートアップ・中小企業

事業の立ち上げ期で、とにかく初期投資とランニングコストを抑えたいスタートアップや中小企業。既存のインターネット回線を活用することで、安価かつ迅速に拠点間ネットワークを構築できます。

ITリテラシーの高い担当者がおり、自社で運用管理が可能な企業

ネットワークの設計から構築、トラブルシューティングまでこなせる専門知識を持った情シス担当者が社内にいる企業。自社で柔軟にネットワークをコントロールしたいというニーズにもマッチします。

海外拠点との接続や、モバイル利用がメインの企業

IP-VPNのサービス提供範囲外である海外拠点との接続が必要な企業や、特定の拠点を持たず、従業員の多くがモバイル環境からアクセスするような働き方が中心の企業。インターネットさえあればどこからでも接続できる利便性が活きます。

補足:もう一つの選択肢「SSL-VPN」とは?

ここまでIP-VPNとインターネットVPN(主にIPsec-VPNを想定)を比較してきましたが、リモートアクセス用途では「SSL-VPN」という選択肢も重要です。

SSL-VPNは、Webブラウザの標準暗号化技術(SSL/TLS)を利用するVPNです。専用ソフトが不要で、PCやスマートフォンのWebブラウザからIDとパスワードでログインするだけで安全な通信を実現できるため、手軽に導入できるのが特徴です。

  • IPsec-VPN(インターネットVPN): 拠点間接続や、特定のPCにクライアントソフトを導入して社内ネットワーク全体にアクセスする場合に適しています。
  • SSL-VPN: 特定のWebアプリケーションやファイルサーバーへのアクセスを許可するなど、より細かいアクセス制御を行いたいリモートアクセス用途に適しています。

VPN導入で失敗しないためのベンダー選定3つのチェックポイント

自社に合うVPNの種類が決まったら、次はどのベンダー(通信事業者やサービス提供会社)に依頼するかというステップに進みます。ここで失敗しないために、最低限確認すべき3つのポイントをご紹介します。

ポイント1:サポート体制は充実しているか(24時間365日対応か)

ネットワーク障害は、ビジネスの停止に直結する重大なインシデントです。特に夜間や休日にトラブルが発生した場合、迅速に対応してくれるサポート体制があるかは極めて重要です。

  • 24時間365日の電話サポート窓口はあるか?
  • 障害発生時の対応フローは明確か?
  • 専門のエンジニアによるサポートが受けられるか?

これらの点を必ず確認し、万が一の際に「ベンダーと連絡が取れない」といった事態に陥らないようにしましょう。

ポイント2:導入実績は豊富か(自社と同じ業種・規模での実績)

ベンダーのWebサイトで導入実績を確認しましょう。特に、自社と同じ業界や、同じくらいの従業員規模の企業への導入実績が豊富かどうかは重要な判断材料になります。

同業種への実績が多ければ、業界特有のセキュリティ要件や課題(例えば、医療業界のISMSなど)を深く理解している可能性が高く、より的確な提案が期待できます。具体的な導入事例を提示してもらい、どのような課題をどう解決したのかを確認するのも有効です。

ポイント3:将来の拡張性は担保されているか(ゼロトラストへの対応など)

VPNは導入して終わりではありません。企業の成長や働き方の変化、新たなセキュリティ脅威の出現に合わせて、ネットワークも進化させていく必要があります。

  • 将来的な拠点増加や帯域増強に柔軟に対応できるか?
  • クラウドサービスの利用拡大を見据えた構成になっているか?
  • 「ゼロトラスト」の考え方に基づいた、よりセキュアな次世代リモートアクセス(ZTNA/SDPなど)への移行パスは用意されているか?

目先のコストや機能だけでなく、3年後、5年後の自社の姿を見据え、長期的な視点でパートナーシップを組めるベンダーを選定することが成功の鍵です。

VPNに関する情シスのよくある質問(FAQ)

Q. VPNを導入すると、本当に通信速度は遅くなりますか?

A. はい、遅くなる可能性がありますが、要因は様々です。

VPN通信は、データの暗号化・復号処理にCPUパワーを使うため、その処理によるわずかな遅延(オーバーヘッド)が発生します。特にインターネットVPNの場合、利用するインターネット回線の混雑状況や、経由するサーバーの距離によって速度が大きく低下することがあります。

ただし、IP-VPNの帯域保証サービスを利用したり、高性能なVPN機器を選定したり、適切なネットワーク設計を行ったりすることで、体感的な速度低下を最小限に抑えることは可能です。

Q. 無料のVPNサービスをビジネスで利用するのは問題ありますか?

A. 絶対に避けるべきです。ビジネス利用は論外と言えます。

無料VPNサービスは、魅力的に見えるかもしれませんが、ビジネスで利用するには致命的なリスクを伴います。

  • 通信ログの取得と転売: サービスの運営コストを賄うため、利用者の通信履歴(アクセス先サイト、時間など)を記録し、第三者に販売している可能性があります。
  • セキュリティ強度の低さ: 暗号化のレベルが低かったり、脆弱性が放置されていたりするケースが多く、情報漏洩のリスクが非常に高いです。
  • 広告表示やマルウェア感染: 悪質なサービスの場合、意図しない広告が表示されたり、マルウェアに感染させられたりする危険性もあります。

企業の機密情報を扱う上で、無料VPNを利用することは、会社の信用を著しく損なう行為に繋がりかねません。

Q. 最近よく聞く「ゼロトラスト」とVPNの関係性を教えてください。

A. VPNはゼロトラストへの移行過程で重要な役割を果たしますが、考え方は異なります。

従来のVPNは、「社内ネットワークは安全、社外は危険」という「境界型防御」の考え方に基づいています。一度VPNで社内に入ってしまえば、中のサーバーには比較的自由にアクセスできる構成が一般的でした。

一方、「ゼロトラスト」は、「すべての通信を信頼しない」ことを前提とし、社内ネットワークへのアクセスであっても、ユーザーやデバイスが正当なものか、アクセスするたびに厳格に検証(認証・認可)する考え方です。

総務省の「テレワークセキュリティガイドライン」でも、近年の巧妙化するサイバー攻撃への対策として、ゼロトラストの考え方を導入することが推奨されています。

出典: 総務省「テレワークセキュリティガイドライン 第5版」

VPNがすぐに不要になるわけではありませんが、将来的には、VPNの役割を補完・代替するZTNA(Zero Trust Network Access)のような、よりきめ細やかなアクセス制御が可能な技術への移行が進むと考えられています。VPNを選定する際も、こうした将来のアーキテクチャ変更を見据えておくことが重要です。

まとめ:自社の要件を整理し、最適なVPNでセキュアな事業環境を構築しよう

本記事では、情報システム担当者の皆様が知るべきVPNの基礎知識から、IP-VPNとインターネットVPNの徹底比較、そして自社に最適なVPNを選ぶための具体的な判断軸までを解説しました。

最後に、重要なポイントを振り返ります。

  • VPNの選択は「どちらが優れているか」ではない: セキュリティ、コスト、品質、拡張性、運用負荷といった要素を総合的に評価し、「自社の事業要件やリソースにどちらが合っているか」で判断することが最も重要です。
  • IP-VPNは「品質と安心」を求める企業向け: 高いセキュリティと安定した通信品質が最優先で、運用負荷を下げたい場合に最適。
  • インターネットVPNは「コストと柔軟性」を求める企業向け: コストを抑えつつ、スピーディかつ柔軟なネットワーク構築が必要で、自社で運用できるスキルがある場合に最適。
  • ベンダー選定が成否を分ける: サポート体制、実績、将来性を見極め、長期的なパートナーとして信頼できるベンダーを選ぶことが、導入後の安定運用に繋がります。

多様化する働き方と巧妙化する脅威の両方に対応していくことは、情シス部門にとって大きな挑戦です。しかし、自社の状況を正しく把握し、最適なネットワークソリューションを選択することで、安全で生産性の高い事業環境を構築することは十分に可能です。

この記事が、貴社のVPN選定の一助となれば幸いです。より具体的な構成や費用について相談したい、あるいは自社のケースではどちらが良いか専門家の意見を聞きたい、という場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

古田 清秀(ふるた きよひで)
古田 清秀(ふるた きよひで)
InfiniCore株式会社 ソリューションサービス事業本部 責任者 新卒以来30年以上IT業界に在籍し、サイバーセキュリティの最前線で活躍する専門家です。 ネットワークインフラ構築の営業を通じてセキュリティの重要性を痛感。前職では新規セキュリティサービスのプロジェクトマネージャー(PM)として、その立ち上げを成功に導きました。 長年の経験と深い知見を活かし、複雑なセキュリティ課題を分かりやすく解説。企業の安全なデジタル変革を支援するための情報発信を行っています。