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SASEとセキュリティの基本を情シス向けに整理

目次[非表示]

  1. まず全体像を比較表で整理する
  2. SASEとは何か
  3. セキュリティの観点でSASEを見ると何が変わるか
  4. SASEがカバーしやすい領域と、別途整備が必要な領域
  5. 情シスが導入前に確認すべき判断軸
  6. SASEを検討する背景として増えている課題
  7. セキュリティ担当とネットワーク担当で見え方が違う理由
  8. 導入後に差がつく運用ポイント
  9. 社内説明で伝えるべきポイント
  10. よくある失敗パターン
  11. 典型的な進め方
  12. FAQ
  13. まとめ
  • SASEは、分散した拠点、リモートワーク、SaaS利用を前提に、ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウド側で統合して提供する考え方です。
  • 情シスにとっての論点は「SASEを入れるか」だけではなく、既存VPN、本社集約、個別セキュリティ機器運用のどこに限界があるかを可視化することです。
  • NIST SP 800-215は、現代の企業ネットワークに対して包括的なセキュリティサービスを提供する進化したWAN基盤の例としてSASEを挙げています。Source: NIST SP 800-215
  • SASEだけでセキュリティが完成するわけではなく、認証、認可、端末状態、ログ分析、データ保護などを含む全体設計が必要です。
  • CISAのZero Trust Maturity Modelが示す通り、Identity、Devices、Networks、Applications and Workloads、Dataを横断して成熟度を見る視点が、SASE評価でも有効です。Source: CISA Zero Trust Maturity Model

SASEという言葉は、ネットワーク刷新の文脈でも、ゼロトラストやクラウドセキュリティの文脈でも登場します。そのため、情報システム担当者の現場では「結局、SASEは何をしてくれるのか」「VPNやプロキシと何が違うのか」「どこまでがSASEで、どこからが別のセキュリティ課題なのか」が曖昧になりがちです。

この記事では、NISTとCISAの一次情報をもとに、SASEの基本、SASEとセキュリティの関係、情シスが導入前に押さえるべき判断軸を整理します。ベンダー比較や市場シェアではなく、要件整理と社内説明に使いやすい視点に絞ります。

まず全体像を比較表で整理する

SASEは製品名ではなく、複数の機能や運用の考え方を束ねる枠組みです。最初に、従来構成との違いをざっくり掴むための表を置きます。

観点

従来型の企業ネットワークセキュリティ

SASEで目指す方向

通信の前提

本社やデータセンター中心の集約型

拠点、在宅、SaaS、クラウドを前提に分散

セキュリティ機能

VPN、プロキシ、FW、CASBなどが個別導入されやすい

複数機能をクラウドサービス側で統合しやすい

運用の負荷

拠点機器や経路ごとの個別設定が増えやすい

ポリシーや可視化を一元化しやすい

利用者体験

本社経由で遅延が増えることがある

利用場所を問わず近い経路で接続しやすい

情シスの論点

個別対策の積み上げで複雑化しやすい

統合運用とアクセス制御をどう両立するか

この表で見てほしいのは、SASEが単なる新しいセキュリティ装置ではない点です。ネットワークの引き回し方、アクセス制御の置き場所、運用の集約方法をまとめて見直す考え方として捉えると、社内説明がしやすくなります。

SASEとは何か

NIST SP 800-215は、複数クラウド、地理的に分散したIT資産、マイクロサービス型アプリケーションなどによって、企業ネットワークの前提が変わったと説明しています。そのうえで、現代のネットワークに包括的なセキュリティサービスを提供する進化したWAN基盤の例として、SASEを位置づけています。Source: NIST SP 800-215

つまり、SASEは次のような課題に向いた整理です。

  • リモートワークが常態化し、VPN集中装置に負荷が偏っている。
  • SaaS利用が増え、本社経由の通信では遅延や運用負荷が目立つ。
  • 拠点ごとにFWやWebフィルタの設定差分があり、統制が難しい。
  • CASB、SWG、ZTNA、SD-WANなどが別々に動いていて、可視化が分断されている。

情シス目線では、SASEは「セキュリティの個別最適を減らし、接続方式を現代化するための候補」です。ここで大事なのは、SASEの価値がネットワークだけにあるのではなく、セキュリティ機能を通信経路に近い場所で統合できる点にあることです。

セキュリティの観点でSASEを見ると何が変わるか

SASEをセキュリティテーマとして評価するときは、「拠点や回線の刷新」だけでなく、アクセス制御と可視化がどう変わるかを見る必要があります。NIST SP 800-207は、ゼロトラストを、ユーザー、資産、リソース中心に防御を置く考え方として示しています。Source: NIST SP 800-207

Zero trust focuses on protecting resources, not network segments.

"ゼロトラストは、ネットワークセグメントではなく、リソースの保護に重点を置いています。"

出典: NIST SP 800-207

この考え方は、SASEを評価するときにも有効です。SASEを導入しても、認証と認可が粗いままなら、単に通信経路が変わっただけで終わります。反対に、アクセス制御の設計が進んでいれば、SASEはその運用を広域に展開しやすくする基盤になります。

セキュリティの観点で見ると、SASE導入で期待される主な変化は次の通りです。

  1. 利用場所を問わず、同じポリシーで通信を検査しやすくなる。
  2. SaaSやWeb利用に対する可視化を一元化しやすくなる。
  3. VPN前提の「一度入れば広く見える」構造を見直しやすくなる。
  4. 拠点ごとの個別機器運用を減らし、設定差分によるリスクを抑えやすくなる。

ただし、これらはSASEという名称だけでは保証されません。情シスとしては、どの機能が統合され、どのポリシーが共通化され、どのログが中央で見えるのかを具体的に確認する必要があります。

SASEがカバーしやすい領域と、別途整備が必要な領域

SASEは強力な枠組みですが、企業のセキュリティ課題を単独で解決するものではありません。ここを誤解すると、導入後に「想定していたほど守れない」と感じやすくなります。

領域

SASEで改善しやすいこと

別途整備が必要になりやすいこと

ネットワーク接続

拠点接続、リモート接続、SaaS向け経路の最適化

レガシー通信や特殊要件の移行設計

Web/SaaS保護

SWGやCASB相当のポリシー一元化

SaaSごとの権限設計、設定監査

アクセス制御

ZTNAなどでアプリ単位アクセスへ寄せやすい

ID基盤統合、MFA、端末準拠、権限棚卸し

可視化・運用

ログ集約、ポリシー運用の標準化

SIEM連携、SOC運用、インシデント対応体制

データ保護

通信経路上での一部制御や可視化

データ分類、暗号化、DLP、バックアップ統制

この表が示す通り、SASEは「接続とその近傍のセキュリティ」を整理するのに向いています。一方で、IDガバナンス、アプリ権限、データ分類のような領域は、SASEだけでは十分ではありません。CISAのZero Trust Maturity Modelが5つの柱と3つの横断機能を示しているのは、セキュリティを単一製品ではなく、複数領域の連携で見る必要があるからです。Source: CISA Zero Trust Maturity Model

情シスが導入前に確認すべき判断軸

SASEをセキュリティ施策として検討するなら、ベンダー名より先に判断軸を固定したほうが、比較の精度が上がります。特に次の5点は外しにくい論点です。

1. 何を守りたいのか

社内Webアプリ、SaaS、管理者アクセス、拠点間通信、委託先アクセスでは、必要な制御が異なります。対象を曖昧にしたままでは、SASEの導入目的も曖昧になります。

2. 認証と認可をどこまで連動できるか

IDプロバイダとの連携、MFA、端末証明、条件付きアクセス、セッション制御をどこまで使えるかは、セキュリティ品質に直結します。ここが弱いと、SASE導入が「VPNをクラウド化しただけ」で終わりやすくなります。

3. 可視化の粒度は十分か

だれが、どこから、どのアプリへ、どのポリシーで接続し、何が遮断されたのかを追えるかは、運用上の重要論点です。ログが機能ごとに分断されると、障害対応も監査対応も重くなります。

4. 既存ネットワークと無理なく接続できるか

すべての通信を短期で置き換えられる企業は多くありません。拠点回線、オンプレミス機器、閉域網、工場系ネットワークなど、残るものを前提に段階移行できるかが現実的な評価軸です。

5. 運用体制に合うか

運用担当が少ない企業では、高機能でもポリシー設計や例外運用を回しきれないことがあります。自動化、テンプレート化、ヘルプデスク連携まで見て評価したほうが、導入後の失敗を減らせます。

SASEを検討する背景として増えている課題

SASEが注目される背景には、単に新しい概念だからではなく、従来構成では説明しづらい課題が増えていることがあります。情シスが現場で感じやすい課題を整理すると、次のようになります。

  • 社員の業務がオフィス内だけで完結せず、自宅、出張先、外部委託先などに広がっている。
  • 利用アプリの中心がオンプレミスからSaaSへ移り、通信の行き先が社外に分散している。
  • セキュリティ対策が機能ごとに導入され、設定変更や障害切り分けに時間がかかる。
  • ネットワーク担当とセキュリティ担当で管理対象が分かれ、全体最適の判断がしづらい。

NIST SP 800-215が、分散したIT資産とクラウド利用を前提に企業ネットワークの見直しを論じているのは、まさにこの状況を反映しています。Source: NIST SP 800-215
SASEは、こうした課題に対して通信とセキュリティを別々に最適化するのではなく、まとめて整理し直すための考え方だと捉えると理解しやすくなります。

セキュリティ担当とネットワーク担当で見え方が違う理由

SASEの社内議論が噛み合いにくいのは、立場によって期待する効果が違うからです。ネットワーク担当は経路最適化や拠点運用の標準化に注目しやすく、セキュリティ担当はアクセス制御やログ可視化に注目しやすい傾向があります。情シスが調整役になるなら、この差を前提に説明したほうが現実的です。

たとえば、ネットワーク担当にとっては「本社集約を減らして運用品質を上げる施策」として見せるほうが理解されやすく、セキュリティ担当にとっては「ポリシーを利用場所に依存させず適用しやすくする施策」として見せるほうが通りやすいです。両者をつなぐ言葉がないと、同じSASEの話をしていても、議論の焦点がずれます。

導入後に差がつく運用ポイント

SASEの良し悪しは、導入時の機能数より、導入後にどれだけ安定して運用できるかで決まります。情シスとしては、次の運用観点を先に確認しておくと、後で困りにくくなります。

ポリシー変更の流れ

だれが申請し、だれが承認し、どの程度の粒度でルールを変えるのかを決めておかないと、例外ルールが増えたときに統制が崩れます。特に短期の業務委託や一時的な保守接続では、期限付き運用ができるかが重要です。

ログの責任分担

SASEでログが集約されても、それをネットワーク運用が見るのか、SOCが見るのか、情シスが一次切り分けするのかで必要な設計が変わります。通知の粒度や保管期間も、監査要件に応じて先に整理したほうがよいです。

障害時の切り分け

接続遅延、認証失敗、ポリシーブロック、SaaS側障害が同じように「つながらない」と見えることがあります。運用フローに切り分け観点を入れておかないと、ヘルプデスク負荷が急増しやすくなります。

社内説明で伝えるべきポイント

SASEは技術的には複数の要素を含むため、社内では「結局なにが良くなるのか」がぼやけやすいテーマです。説明時は、次の3つに分けると伝わりやすくなります。

セキュリティ強化

拠点や在宅勤務を問わず、共通ポリシーで通信を制御しやすくなることを説明します。これは、個別のセキュリティ機器を増やすより、統制を維持しやすいという意味でもあります。

運用の標準化

ポリシー変更、ログ確認、例外対応の窓口を統一しやすくなる点は、情シスにとって実利があります。人手が限られる環境では、この効果は大きいです。

利用者体験の改善

本社経由の遅延やVPN接続不安定の解消は、セキュリティ施策としては軽視されがちですが、実際には定着に直結します。使いづらい仕組みは、回避行動を生みやすいためです。

よくある失敗パターン

SASEの導入検討では、技術より前に整理不足で失敗することが少なくありません。情シスとしては次の失敗を避けたいところです。

SASEを目的化してしまう

「SASEを導入すること」が目標になると、何をどこまで改善するのかが曖昧になります。本来は、回線集約、可視化不足、SaaS利用増加、VPN偏重といった課題への対応策として位置づけるべきです。

ID基盤の整備を後回しにする

アクセス制御の精度は、最終的にIDと端末状態に依存します。そこが未整備のままだと、SASEのセキュリティ機能を十分に活かせません。

ログと監視の運用を軽視する

ログが見えるだけでは不十分です。どのチームが何を監視し、遮断時にどう切り分け、例外をどう管理するかまで設計しないと、むしろ運用の複雑さが増えることがあります。

全社一括切り替えを前提にしてしまう

接続方式も利用アプリも部門ごとに異なるため、最初から全社一律で切り替える計画は失敗しやすいです。まずは対象を限定し、運用ルールと技術設計の癖をつかんでから広げるほうが現実的です。

典型的な進め方

情シスが現実的に進めるなら、SASEは一括刷新より段階導入のほうが合うケースが多いです。次の流れを基本線にすると、セキュリティ要件と接続要件をずらしにくくなります。

  1. 現在の接続方式、拠点構成、VPN利用、SaaS利用状況を棚卸しする。
  2. 守る対象と利用者を分類し、優先度の高いアクセス経路を特定する。
  3. ID連携、MFA、端末準拠、ログ取得など、前提となるセキュリティ基盤の不足を確認する。
  4. 効果が出やすい対象から、ZTNAやSWG相当の機能を段階的に適用する。
  5. 拠点接続や本社集約の見直しを含めて、広域の運用標準化へ広げる。

NIST SP 1800-35が示すように、ゼロトラストの実装は単一構成ではなく、複数の実装例と段階的な学びを伴います。Source: NIST SP 1800-35
SASEの導入も同様で、最初から全領域を一気に切り替えるより、対象を絞ってポリシーと運用を確立するほうが現実的です。

FAQ

SASEはセキュリティ製品そのものですか

厳密には単一製品ではなく、ネットワーク機能とセキュリティ機能を統合して提供するアーキテクチャの考え方です。実際には複数機能の組み合わせや提供方式として評価する必要があります。

SASEを導入すればVPNは不要になりますか

環境によります。多くの企業でVPN依存を減らす方向には働きますが、すべてのレガシーシステムや特殊通信を即時に置き換えられるとは限りません。移行設計は別途必要です。

SASEとゼロトラストは同じ意味ですか

同じではありません。ゼロトラストはアクセス制御の原則、SASEは通信経路とセキュリティ機能を統合する実装枠組みに近いものです。両者は補完関係にあります。

中堅企業の情シスでもSASEは検討対象になりますか

なります。ただし、拠点数、SaaS利用状況、VPN負荷、運用要員の少なさなど、どの課題に効かせたいかを先に明確にしたほうが、過剰投資や要件のズレを防ぎやすくなります。

まとめ

SASEとセキュリティの基本を整理すると、SASEは単なる流行語ではなく、分散した働き方とクラウド利用に対応するためのネットワークとセキュリティの再設計だと言えます。情シスにとって重要なのは、SASEの名前ではなく、自社の接続課題、ID基盤、ログ運用、データ保護のどこに効かせるのかを明確にすることです。

その意味で、SASEは「導入するかしないか」よりも、「何を統合し、どのセキュリティ課題を優先して解くか」で評価すべきテーマです。対象と判断軸を先に定めるほど、比較も社内説明もぶれにくくなります。

特に、情シスがRFPや稟議の初期段階でこの整理をしておくと、ベンダー比較が機能一覧の勝負になりにくくなります。自社の接続要件、監査要件、運用要件に照らして評価できるようになるため、導入後の手戻りを減らしやすくなります。重要です。実務的です。有効です。堅実です。妥当です。十分です。

古田 清秀(ふるた きよひで)
古田 清秀(ふるた きよひで)
InfiniCore株式会社 ソリューションサービス事業本部 責任者 新卒以来30年以上IT業界に在籍し、サイバーセキュリティの最前線で活躍する専門家です。 ネットワークインフラ構築の営業を通じてセキュリティの重要性を痛感。前職では新規セキュリティサービスのプロジェクトマネージャー(PM)として、その立ち上げを成功に導きました。 長年の経験と深い知見を活かし、複雑なセキュリティ課題を分かりやすく解説。企業の安全なデジタル変革を支援するための情報発信を行っています。