
なぜ今SASEが注目されるのか?DX時代に必須のセキュリティ戦略を完全理解
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なぜ今「SASE」によるセキュリティ対策が必須なのか?
デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せ、ビジネス環境が劇的に変化する現代。情報システム担当者の皆様は、これまで以上に複雑で高度なセキュリティ課題に直面しているのではないでしょうか。リモートワークの常態化、クラウドサービスの利用拡大、そして巧妙化するサイバー攻撃。これら全てに対応し、ビジネスの成長を止めないセキュアなITインフラをどう構築すべきか。その答えこそが、今、大きな注目を集めている「SASE(Secure Access Service Edge)」です。
本記事では、なぜ今SASEがDX時代の標準的なセキュリティ戦略として必須なのか、その基本概念から導入のメリット、実践的なステップまでを、情報システム担当者の視点から徹底的に解説します。
リモートワーク・クラウド化で限界に達した従来のセキュリティモデル
従来、多くの企業で採用されてきたセキュリティモデルは「境界型防御」と呼ばれ、社内ネットワーク(信頼できる領域)と社外のインターネット(信頼できない領域)の境界線にファイアウォールなどを設置し、その境界を守るという考え方でした。しかし、このモデルは働き方やITインフラが大きく変化した現代においては、もはや有効に機能しなくなりつつあります。
企業におけるクラウドサービスの利用は年々増加しており、総務省の調査では2022年時点で7割以上の企業が何らかのクラウドサービスを利用していると回答しています。
このように、守るべきデータやアプリケーションが社内だけでなく、複数のクラウドサービスに分散しているのが当たり前になりました。また、働く場所もオフィスに限定されず、自宅や外出先など様々です。この状況下で、従来の境界型防御モデルは多くの課題を露呈しています。
VPNの課題:通信の遅延とセキュリティリスクの増大
リモートワークの普及に伴い、社内リソースへのアクセス手段としてVPN(Virtual Private Network)の利用が急増しました。しかし、全ての通信が一度データセンターを経由するVPNの仕組みは、トラフィックの集中による通信遅延を招きがちです。特に、Microsoft 365やSalesforceといったクラウドサービスへのアクセスでもVPNを経由させる構成では、ユーザーの生産性を大きく低下させる原因となります。
また、一度VPNで社内ネットワークに接続を許可してしまうと、そのユーザーの端末がマルウェアに感染していた場合、ネットワーク全体に脅威が拡散するリスクも抱えています。
境界型防御では守りきれない現代の脅威
境界型防御は「社内は安全」という前提に立っていますが、フィッシング詐欺による認証情報の窃取や、内部不正など、脅威は必ずしも外部からだけとは限りません。一度境界線の内側への侵入を許してしまうと、内部での不正な活動(ラテラルムーブメント)を検知・防御することが困難であるという大きな弱点があります。クラウドサービスへの直接アクセスが増えた今、もはや明確な「境界」は存在しないのです。
DX推進の足かせに?情報システム担当者が抱えるセキュリティの悩み
「新しいクラウドサービスを導入したいが、セキュリティポリシーの適用や管理が追いつかない」 「リモートワーカーから『VPNが遅い』というクレームが絶えない」 「拠点ごとにバラバラのセキュリティ製品を導入しており、運用管理が煩雑化している」 「万が一インシデントが発生した際に、どこで何が起きているのか迅速に把握できない」
これらは、多くの情報システム担当者が抱える共通の悩みではないでしょうか。従来のセキュリティ対策の延長線上では、これらの課題を根本的に解決することは困難であり、DX推進の足かせになりかねません。
この記事でわかること:SASEが次世代セキュリティの標準となる理由
この記事を最後までお読みいただくことで、SASEがこれらの課題をいかにして解決し、なぜ次世代のセキュリティ標準と呼ばれるのかをご理解いただけます。SASEの基本構成要素から、従来のモデルとの違い、そして具体的な導入メリットまで、DX時代を勝ち抜くためのセキュリティ戦略の全体像を明らかにします。
SASEとは何か?ゼロトラストを実現する基本構成要素を徹底解説
SASE(Secure Access Service Edge)とは、ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウド上で統合して提供する新しい概念モデルです。米国の調査会社であるガートナー社によって2019年に提唱されました。
SASEの最大の特徴は、ユーザーやデバイスがどこにあっても、クラウドサービスや社内データセンターなど、どこにあるリソースにアクセスする場合でも、クラウド上の単一のプラットフォームを経由させることで、一貫したネットワークとセキュリティのポリシーを適用できる点にあります。これにより、「境界」という概念をなくし、ゼロトラストセキュリティを実現します。
SASEを構成する5つの主要なセキュリティ機能
SASEは、主に以下の5つのコンポーネント(機能)をクラウド上で統合して提供します。
SD-WAN:快適な通信を実現するネットワーク機能
SD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)は、物理的な回線に依存せず、ソフトウェアによって仮想的なネットワークを構築・制御する技術です。トラフィックの種類に応じて最適な通信経路を動的に選択することで、通信の安定化と高速化を実現します。例えば、重要な業務アプリケーションの通信は高品質な専用線へ、Web会議の通信はインターネット回線へ、といった振り分けが可能です。
SWG:Webアクセスの脅威から守るセキュリティゲートウェイ
SWG(Secure Web Gateway)は、ユーザーがインターネット上のWebサイトへアクセスする際の通信をプロキシとして中継し、マルウェア感染やフィッシングサイトへのアクセスといった脅威から保護する機能です。URLフィルタリングやアンチウイルス、サンドボックスといった多層的なセキュリティチェックをクラウド上で実行します。
CASB:クラウドサービスの利用状況を可視化・制御
CASB(Cloud Access Security Broker)は、企業が利用するクラウドサービス(Microsoft 365, Google Workspace, Boxなど)の利用状況を可視化し、制御するためのソリューションです。「誰が」「どのファイルに」「どのような操作をしたか」を監視し、機密情報のアップロードをブロックするなど、企業のセキュリティポリシーに基づいたきめ細かな制御を実現します。
ZTNA:脱VPN!「何も信頼しない」前提のセキュアなアクセス
ZTNA(Zero Trust Network Access)は、「何も信頼せず、全てを検証する」というゼロトラストの原則に基づき、社内アプリケーションやデータへのアクセスを制御する仕組みです。ユーザーごと、アプリケーションごとにアクセス権限を厳格に管理し、認証・認可されたユーザーに対してのみ、必要なリソースへのアクセスを許可します。VPNのようにネットワーク全体へのアクセスを許可しないため、よりセキュアなリモートアクセス環境を構築できます。
FWaaS:クラウドベースで提供される次世代ファイアウォール
FWaaS(Firewall as a Service)は、従来は物理的なアプライアンスとしてデータセンターに設置されていたファイアウォール機能を、クラウドサービスとして提供するものです。全ての拠点やリモートワーカーの通信をクラウド上のFWaaSで一元的に保護し、管理することが可能になります。
もう混乱しない!SASEとゼロトラストセキュリティの関係性
「SASE」と「ゼロトラスト」は混同されがちですが、その関係を整理すると、「ゼロトラストはセキュリティの『考え方・概念』」であり、「SASEはそのゼロトラストを実現するための具体的な『アーキテクチャ・手段』」と理解すると分かりやすいでしょう。
ゼロトラストが目指す「全てのアクセスを信頼せず、都度検証する」という理想的な状態を、企業全体のネットワークとセキュリティの仕組みとして具現化するフレームワークがSASEなのです。
従来の境界型セキュリティとSASEモデルの違い
【従来の境界型セキュリティモデル】
- 構造: データセンター中心。全ての通信が一度データセンターのファイアウォールやVPNゲートウェイを経由。
- 通信の流れ: リモートワーカー → VPN → データセンター → インターネット(クラウドサービス)
- 課題: 通信の遅延、VPN装置の運用負荷、社内外でセキュリティレベルが不均一。
【SASEモデル】
- 構造: クラウド中心。ユーザーは最も近いクラウド上のSASEプラットフォーム(POP: Point of Presence)に接続。
- 通信の流れ: ユーザー(場所を問わず) → SASEプラットフォーム → 各種リソース(インターネット、クラウド、データセンター)
- メリット: 通信の最適化と高速化、場所を問わない均一なセキュリティ、運用管理の一元化。
【導入メリット】
SASEが貴社のセキュリティ課題を解決する3つの大きな理由
SASEを導入することは、単にセキュリティ製品を新しくする以上の、大きなビジネスインパクトをもたらします。ここでは、情報システム担当者の視点から特に重要な3つのメリットを解説します。
理由1:セキュリティレベルの向上とガバナンス強化
場所を問わず均一なセキュリティポリシーを適用
SASEは、全ての通信をクラウド上の単一プラットフォームで検査・制御します。これにより、オフィス、自宅、外出先など、ユーザーがどこからアクセスしても、同じセキュリティポリシーが適用されます。拠点ごとに異なるセキュリティ機器を導入・運用する必要がなくなり、全社的なセキュリティレベルの標準化とガバナンス強化を実現できます。
脅威の可視化と迅速なインシデント対応
全ての通信ログがSASEプラットフォームに集約されるため、セキュリティインシデントの可視性が大幅に向上します。「いつ、誰が、どこから、どのリソースにアクセスし、何をしたのか」を横断的に分析できるため、脅威の早期発見と迅速な原因究明、対応が可能になります。
理由2:ネットワークとセキュリティ運用の一元化による管理負荷の削減
複数ベンダー製品の管理からの解放
従来は、ファイアウォール、VPN、プロキシ、CASBなど、機能ごとに異なるベンダーの製品を導入し、個別に管理する必要がありました。SASEはこれらの機能を単一のプラットフォームに統合するため、管理コンソールも一つに集約されます。これにより、情報システム担当者の運用管理負荷は劇的に削減されます。
ITインフラのシンプル化と運用コストの最適化
高価な物理アプライアンスの購入や維持管理、拠点間の専用線契約などが不要になるため、ITインフラ全体をシンプル化できます。資産を持つ「CAPEX」から、利用量に応じた「OPEX」へとコスト構造を転換し、ビジネスの状況に合わせた柔軟なコスト最適化が可能になります。
理由3:ユーザーの生産性向上と快適なハイブリッドワーク環境の実現
社内・社外どこからでも遅延のない快適なアクセス
SASEアーキテクチャでは、ユーザーは世界中に分散配置された最寄りのPOP(接続拠点)にアクセスし、そこから最適な経路で目的のクラウドサービスや社内リソースに接続します。データセンターへのトラフィック集中(バックホール)を解消することで、通信遅延の問題を根本的に解決し、ユーザーは場所を問わず快適な業務環境を手に入れることができます。
クラウドサービス利用の安全性と利便性の両立
CASBやSWGの機能により、シャドーIT(管理部門が把握していないクラウドサービスの利用)を可視化し、安全な利用を促進できます。利便性の高いクラウドサービスを積極的に活用しながらも、企業のセキュリティポリシーを徹底できるため、安全性と利便性というトレードオフの関係を解消し、DXを加速させます。
失敗しないSASE導入へ!情報システム担当者のための実践的4ステップ
SASEは強力なソリューションですが、その導入は全社的なプロジェクトとなります。ここでは、導入を成功に導くための実践的な4つのステップをご紹介します。
ステップ1:現状の課題整理と導入目的の明確化
まずは「何のためにSASEを導入するのか」という目的を明確にすることが最も重要です。
ネットワーク構成とセキュリティポリシーの棚卸し
現在のネットワーク構成図、利用しているセキュリティ製品の一覧、拠点ごとの通信経路、クラウドサービスの利用状況、そして現在のセキュリティポリシーなどを全て洗い出し、現状を正確に把握します。
解決したい課題の優先順位付け
「VPNの遅延を解消したい」「クラウド利用のセキュリティを強化したい」「運用管理コストを削減したい」など、現状把握で見えてきた課題に優先順位をつけます。この優先順位が、後のソリューション選定の重要な判断基準となります。
ステップ2:自社に最適なSASEソリューション選定のポイント
SASEは多くのベンダーから提供されており、機能や特徴も様々です。自社に最適なソリューションを選ぶためのポイントを押さえましょう。
シングルベンダーか、マルチベンダーか?メリット・デメリットを比較
- シングルベンダーSASE: 一社のベンダーがネットワークとセキュリティ機能を統合して提供。管理の一元化や連携のスムーズさがメリットですが、特定の機能が他社より劣る可能性も。
- マルチベンダーSASE: 複数のベンダーの優れた機能を組み合わせてSASEを構築。ベストオブブリードな構成が可能ですが、連携の複雑さや管理の煩雑化がデメリットに。
自社の技術力や運用体制を考慮して、最適なアプローチを選択します。
サポート体制と導入実績のチェックは必須
SASEは企業のITインフラの根幹となるため、万が一のトラブル発生時に迅速に対応してくれる手厚いサポート体制は不可欠です。また、自社と同じ業種や規模の企業での導入実績が豊富かどうかも、信頼性を判断する上で重要な指標となります。
ステップ3:スモールスタートで始める段階的な導入計画の立案
全社一斉に導入するのではなく、段階的に導入を進めることが成功の鍵です。
PoC(概念実証)で効果を検証する重要性
本格導入の前に、特定のユーザーやアプリケーションに限定してPoC(Proof of Concept)を実施し、期待した効果(通信速度の改善、セキュリティ機能の有効性など)が得られるかを実環境で検証します。ここで得られたフィードバックを基に、本格展開に向けた計画を修正します。
特定の拠点や部門から始めるパイロット導入
PoCで効果を確認できたら、次は特定の拠点や部門を対象にパイロット導入を行います。ITリテラシーの高い部門や、新しい技術への関心が高い海外拠点などから始めるのがスムーズです。ここで運用ノウハウを蓄積し、全社展開へと繋げていきます。
ステップ4:導入後の効果測定と継続的な改善
SASEの導入はゴールではありません。導入後も継続的に効果を測定し、改善していくプロセスが重要です。通信状況のログやセキュリティイベントのレポートを定期的に分析し、ポリシーのチューニングや運用プロセスの見直しを行い、セキュリティ体制を常に最適化していくことが求められます。
まとめ:SASEで実現する、一歩先のDX時代のセキュリティ戦略
本記事では、DX時代に必須となるセキュリティ戦略「SASE」について、その必要性から基本概念、導入メリット、実践ステップまでを包括的に解説しました。
SASEが今、注目される理由の総括
- 働き方とIT環境の変化: リモートワークとクラウドの普及により、従来の「境界型防御」が限界に達した。
- 高度なセキュリティの実現: 場所を問わず、全てのアクセスに対して均一で高度なセキュリティを適用できる。
- 運用負荷の削減: ネットワークとセキュリティの管理を一元化し、情報システム担当者の負担を軽減する。
- ユーザー生産性の向上: 通信遅延を解消し、快適でセキュアな業務環境を提供する。
SASEは、もはや単なるセキュリティソリューションではなく、企業のDX推進とビジネス成長を支えるための経営基盤そのものと言えるでしょう。
次のステップへ:自社のセキュリティ体制を見直すための最初の一歩
この記事を読んでSASEに興味を持たれたなら、まずは自社のセキュリティ課題を改めて見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
「自社の課題がSASEで本当に解決できるのか、専門家の意見を聞いてみたい」 「具体的なソリューションの比較検討を手伝ってほしい」
そのようなご要望がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なセキュリティ戦略の立案をサポートいたします。まずは第一歩として、無料相談や関連資料のダウンロードをご活用ください。


