
テレワークのセキュリティはVPNで限界?SASEが解決する根本的な課題とは
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あなたの会社のテレワークは大丈夫?VPNが限界を迎えているサインとは
テレワークが常態化し、働き方が多様化する現代。情報システム担当者の皆様は、日々、従業員が安全かつ快適に業務を遂行できる環境の維持に奮闘されていることでしょう。その中心的な役割を担ってきたのが、VPN(Virtual Private Network)です。しかし、「最近、VPNに関する問い合わせが急増している…」と感じてはいませんか?
多くの企業でテレワークを支えてきたVPNですが、その「限界」を示すサインが様々な形で現れ始めています。もし、以下のような課題に一つでも心当たりがあれば、それは従来のセキュリティ対策を見直すタイミングが来ているのかもしれません。
1-1:「遅い」「繋がらない」が頻発…VPNのトラフィック渋滞問題
「朝の始業時間や夕方にWeb会議が固まる」「大容量のファイル共有に時間がかかりすぎる」といった従業員からの声。これは、VPNが抱える構造的な問題の典型例です。
従来のVPNは、一度すべての通信をデータセンターに集約(バックホール)してから、インターネットや各種クラウドサービスに接続する設計になっています。テレワークの普及により、このデータセンターへのアクセスが集中し、VPNゲートウェイがボトルネックとなって深刻なトラフィック渋滞を引き起こしているのです。
この問題は、単なる利便性の低下に留まりません。従業員の生産性低下に直結する、看過できない経営課題と言えるでしょう。実際に、VPNのパフォーマンスに関する調査データも報告されています。
テレワーク時にVPNを利用した企業の62.6%がVPNのレスポンス低下や遅延を経験しており、その対策として「VPNの同時接続数を増やす」(54.4%)、「VPN機器の追加」(37.7%)といった、いわば対症療法的な対応を取らざるを得ない状況が明らかになっています。
機器の増設を繰り返しても、根本的な解決には至らない。これが多くの情報システム担当者が直面している現実ではないでしょうか。
1-2:クラウドサービスの利用拡大で複雑化する境界型セキュリティ
Microsoft 365, Salesforce, AWS, Azure...。今やビジネスにクラウドサービスの利用は不可欠です。しかし、このクラウドシフトが、従来の「境界型セキュリティ」モデルを根底から揺るがしています。
境界型セキュリティは、社内ネットワーク(信頼できる領域)とインターネット(信頼できない領域)の間に「壁」を築き、その境界を守るという考え方です。VPNはまさに、この壁の内側へ安全に入るための「門」の役割を果たしてきました。
しかし、守るべきデータやアプリケーションが社内だけでなく、複数のクラウド上に分散している現在、この「境界」は曖昧模糊としています。従業員は場所を問わず、様々なデバイスから直接クラウドサービスにアクセスします。もはや、データセンターという一つの門だけを守っていても、情報資産を保護することは困難なのです。
1-3:管理者の悲鳴!増え続ける運用・管理コストと人的負荷
トラフィック増大への対応、クラウドサービス毎のアクセス制御、脆弱性への迅速な対応…。VPNを中心としたセキュリティ環境は、運用・管理の複雑化とコスト増大という深刻な課題を情報システム担当者に突きつけています。
- 機器の乱立と複雑なポリシー管理:拠点ごとにVPN機器を設置し、ファイアウォール、プロキシ、URLフィルターなど、複数のセキュリティ製品を個別に運用。ポリシーの統一性が取れず、設定ミスによるセキュリティホールを生み出す温床にもなりかねません。
- 高騰する運用コスト:ハードウェアの保守費用、ライセンス費用、そしてトラフィック増強に伴う回線費用など、コストは増え続ける一方です。
- 逼迫する人的リソース:障害対応、パッチ適用、ユーザーからの問い合わせ対応など、日々の運用業務に追われ、本来注力すべき戦略的なIT企画に時間を割けない、というジレンマに陥っていませんか?
これらのサインは、従来のVPNを基盤としたセキュリティアーキテクチャが、現代の働き方やIT環境に追いついていないことを示しています。では、これらの課題を根本から解決する次世代のソリューションとは何なのでしょうか。
【次世代の解決策】
VPNの課題を根本から解消するSASEとは?
VPNが直面する数々の課題。これらを解決するために登場したのが、「SASE(Secure Access Service Edge)」と呼ばれる新しいアーキテクチャです。読み方は「サシー」です。SASEは、これまでのセキュリティの考え方を刷新し、テレワーク時代の新たな標準となる可能性を秘めています。
2-1:今さら聞けない「SASE」の基本概念をわかりやすく解説
SASEとは、2019年に大手調査会社のガートナー社が提唱したセキュリティフレームワークです。一言で言えば、「ネットワーク機能」と「セキュリティ機能」をクラウド上で統合し、単一のサービスとして提供するモデルのことを指します。
2-1-1:ネットワークとセキュリティをクラウドで統合するアーキテクチャ
従来、ネットワーク機能(VPNやSD-WANなど)とセキュリティ機能(ファイアウォール、SWG、CASBなど)は、それぞれ別の物理的な機器(アプライアンス)としてデータセンターに設置・運用するのが一般的でした。
SASEは、これらの機能をすべてクラウド上のプラットフォームに集約します。ユーザーは、場所やデバイスを問わず、最も近いSASEの接続拠点(PoP:Point of Presence)にアクセスするだけで、必要なネットワーク機能と高度なセキュリティ機能が適用された上で、目的のクラウドサービスや社内システムへ安全に接続できるのです。これにより、データセンターへのトラフィック集中を回避し、快適な通信速度と統一されたセキュリティを実現します。
2-1-2:「何も信頼しない」が前提のゼロトラストセキュリティモデル
SASEの核となるのが、「ゼロトラスト」というセキュリティ思想です。「社内は安全、社外は危険」という境界型セキュリティとは異なり、ゼロトラストは**「すべての通信を信頼しない(Never Trust, Always Verify)」**ことを前提とします。
ユーザーがどこからアクセスしようとも、その都度、本人認証、デバイスの健全性、アクセス先の情報などを厳格に検証し、許可されたアプリケーションへの最小限のアクセス権のみを与えます。これにより、万が一IDが漏洩したり、マルウェアに感染したデバイスからアクセスされたりしても、被害を最小限に食い止めることが可能になります。
2-2:【比較表で一目瞭然】SASEと従来型VPNの決定的な違い
SASEとVPNの違いをより具体的に理解するために、以下の比較表をご覧ください。
比較項目 | 従来型VPN | SASE(Secure Access Service Edge) |
|---|---|---|
アーキテクチャ | データセンター中心(ハブ&スポーク) | クラウドネイティブ(分散型) |
セキュリティモデル | 境界型セキュリティ | ゼロトラストセキュリティ |
主な機能 | 暗号化された通信経路の提供 | ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウドで統合 |
ユーザー体験 | トラフィック集中による速度低下のリスク | 通信経路の最適化により快適な速度を維持 |
管理・運用 | 機器・拠点ごとに個別管理、複雑化しやすい | クラウド上で一元管理、シンプルで効率的 |
拡張性 | 機器の増設が必要で、柔軟性に欠ける | クラウドサービスのため、需要に応じて柔軟に拡張可能 |
主な接続先 | 主に社内データセンター | 社内データセンター、各種クラウドサービス(IaaS/SaaS) |
このように、SASEはVPNが抱える課題を構造的に解決し、よりセキュアで、より効率的、そしてより柔軟なネットワークセキュリティ環境を提供します。
SASEがテレワークのセキュリティを劇的に改善する
5つの理由
なぜ今、多くの企業がVPNからSASEへの移行を検討しているのでしょうか。ここでは、SASEがテレワーク環境を劇的に改善する5つの具体的な理由を解説します。
3-1:理由1:場所を問わない均一で強固なセキュリティポリシーの適用
SASEは、すべてのセキュリティ機能をクラウド上で提供します。これにより、従業員がオフィス、自宅、外出先のどこからアクセスしても、常に同じセキュリティポリシーを適用できます。本社と支社でセキュリティレベルに差がある、といったガバナンスの問題を解消し、全社的に均一で強固なセキュリティ体制を構築できます。
3-2:理由2:通信経路の最適化で脱VPN!ユーザーの体感速度が向上
SASEを利用すれば、従業員はデータセンターを経由することなく、最寄りのSASE接続拠点から直接クラウドサービスへアクセスできます。この「脱VPN」とも言える通信経路の最適化により、遅延が大幅に改善。Web会議やSaaSアプリケーションのレスポンスが向上し、従業員の生産性を飛躍的に高めます。
3-3:理由3:クラウドでの一元管理が実現する運用負荷の大幅な軽減
これまで頭を悩ませてきた物理アプライアンスの管理・運用から解放されます。SASEは、ネットワークとセキュリティの設定、ポリシー管理、ログ監視などを単一の管理コンソールから直感的に行えます。これにより、情報システム担当者の運用負荷を大幅に軽減し、より戦略的な業務にリソースを集中させることが可能になります。
3-4:理由4:ユーザーやデバイス単位での柔軟なアクセス制御
ゼロトラストモデルをベースとするSASEは、「誰が」「どのデバイスで」「どこから」「何に」アクセスしようとしているのかをきめ細かく検証し、動的にアクセスを制御します。例えば、「正社員が社給PCでアクセスする場合のみ、基幹システムへのアクセスを許可する」といった柔軟なポリシー設定が可能です。これにより、利便性を損なうことなく、最小権限の原則に基づいた強固なセキュリティを実現します。
3-5:理由5:事業拡大にも迅速に対応できる高いスケーラビリティ
拠点の新設や従業員の増減、M&Aなど、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応できるのもSASEの大きなメリットです。物理的な機器の購入や設定は不要で、クラウド上でライセンスを追加するだけで簡単かつスピーディに拡張できます。ビジネスの成長をITインフラが阻害する、といった事態を防ぎます。
失敗しないSASEの選び方|情シス担当者が押さえるべき3つの選定ポイント
SASEのメリットは理解できたものの、いざ導入を検討するとなると、どのベンダーのどのサービスを選べば良いのか迷ってしまうかもしれません。ここでは、情報システム担当者として押さえておくべき3つの選定ポイントをご紹介します。
4-1:ポイント1:自社のセキュリティ要件を満たす機能を網羅しているか
SASEは、様々なセキュリティ機能の集合体です。まずは自社のセキュリティポリシーや課題を明確にし、それを解決するために必要な機能が提供されているかを確認しましょう。
【チェックリスト例】
- SWG (Secure Web Gateway): 危険なWebサイトへのアクセスをブロックする機能
- CASB (Cloud Access Security Broker): SaaS利用の可視化と制御を行う機能
- ZTNA (Zero Trust Network Access): アプリケーションへのアクセスを個別制御する機能
- FWaaS (Firewall as a Service): クラウド型のファイアウォール機能
- DLP (Data Loss Prevention): 機密情報の漏洩を防止する機能
すべての機能を一度に導入する必要はありません。自社の優先順位に合わせて、段階的に導入できるサービスを選ぶことも重要です。
4-2:ポイント2:既存環境との親和性とスムーズな導入プロセス
SASEへ移行するとはいえ、既存の社内システムやActive Directoryなどの認証基盤をすべて一度に入れ替えるのは現実的ではありません。既存のIT環境とスムーズに連携できるか、一部の部門やユーザーから段階的に導入(スモールスタート)できるか、といった点は重要な選定ポイントです。PoC(概念実証)などを通じて、導入のしやすさを事前に確認することをお勧めします。
4-3:ポイント3:導入後の運用を見据えたサポート体制の充実度
SASEは運用負荷を軽減するソリューションですが、導入初期の構築支援や、万が一のトラブル発生時に迅速に対応してくれるサポート体制は不可欠です。特に、海外ベンダーのサービスを利用する場合は、日本語でのサポートが受けられるか、国内にサポート拠点があるかなどを必ず確認しましょう。導入事例やユーザーの評価を参考に、信頼できるパートナーを選ぶことが成功の鍵となります。
まとめ:VPN中心のセキュリティから脱却し、次世代の働き方を実現しよう
本記事では、多くの企業で限界を迎えつつあるVPNの課題と、それを根本から解決する次世代のソリューション「SASE」について詳しく解説しました。
5-1:テレワークの限界を突破する鍵はSASEへの移行
「遅い・繋がらない」といったパフォーマンスの問題、クラウド時代における境界型セキュリティの形骸化、そして増大し続ける運用負荷。これらの課題は、SASEが提供する「ネットワークとセキュリティのクラウド統合」と「ゼロトラスト」の考え方によって解決可能です。SASEへの移行は、単なるセキュリティ強化に留まらず、従業員の生産性を向上させ、ビジネスの俊敏性を高めるための戦略的な一手と言えるでしょう。
5-2:セキュアで快適な業務環境の構築に向けた最初の一歩
VPNの限界を感じつつも、何から手をつければ良いか分からない、自社に最適なSASEソリューションが知りたい、とお考えの情報システム担当者様も多いのではないでしょうか。
次世代のセキュアで快適な業務環境を構築するための第一歩として、まずは専門家への相談や関連資料の収集から始めてみることをお勧めします。自社の課題を整理し、SASEがもたらす未来を具体的にイメージすることが、変革への重要な推進力となります。貴社のビジネスをさらに加速させるための最適な選択を、ぜひご検討ください。


