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SASEとVPNの違いを情シス向けに解説

目次[非表示]

  1. SASEとVPNの違いを一表で見る
  2. VPNは何をしているのか
  3. SASEは何をまとめる考え方か
  4. 情シスが見るべき本質的な差は「アクセス単位」
  5. どんな企業ならVPN中心でもよいか
  6. どんな企業ならSASEを優先しやすいか
  7. 導入判断で見落としやすい論点
  8. 移行時に起きやすい失敗パターン
  9. 検討を始める前のチェックリスト
  10. 情シス向けの現実的な進め方
  11. FAQ
  12. まとめ
  • VPNは主に「社内ネットワークへ接続する経路」を提供する仕組みです。
  • SASEは、SD-WANとクラウド提供のセキュリティ機能を組み合わせ、ユーザーや拠点からのアクセスをまとめて扱うアーキテクチャです。
  • 情報システム担当者が比較すべき軸は、接続先、ポリシー適用の粒度、運用場所、拡張性、監査のしやすさです。
  • 既存VPNをすぐ全廃する前提ではなく、SASEやZTNAを段階導入しながら使い分ける設計の方が現実的なケースは多くあります。

リモートワークやSaaS利用が増えると、従来のVPNだけで全社アクセスを支える設計に無理が出やすくなります。一方で、SASEは便利そうに見えても、単に「VPNの上位互換」と理解すると判断を誤ります。

この記事は情報システム担当者向けに、NIST、CISA、ベンダー公式情報を基に、SASEとVPNの違いを整理し、どの条件でどちらを選ぶべきかを実務目線でまとめたものです。

最初に前提を明確にします。ここでいうVPNは主にリモートアクセスVPNを指し、SASEはCisco公式が説明するような、SD-WANとクラウドネイティブなセキュリティ機能を束ねたアーキテクチャとして扱います。製品比較ではなく、情シスが導入判断をする際の設計観点に絞って解説します。

SASEとVPNの違いを一表で見る

まず判断軸を短時間でつかめるよう、両者の違いを表で整理します。

比較軸

VPN

SASE

主な役割

社内ネットワークへ安全に接続する経路を提供

ネットワーク接続とセキュリティ制御をクラウド側で一体提供

典型的な接続先

本社・DC・閉域側の内部ネットワーク

SaaS、インターネット、拠点、アプリ単位アクセス

アクセス制御の単位

ネットワーク単位になりやすい

ユーザー、端末、アプリ、場所などの属性単位に寄せやすい

セキュリティ機能

別製品で補完しやすい

SWG、CASB、FWaaS、ZTNAなどを統合しやすい

運用負荷

集中装置、帯域、証明書、クライアント配布管理が重くなりやすい

ポリシー設計は難しいが、分散拠点やSaaS向け運用は集約しやすい

向く場面

既存社内資産への限定的な遠隔接続

SaaS中心、拠点分散、ゼロトラスト前提の再設計

この表で重要なのは、VPNとSASEが「同じ問題を同じ単位で解く」ものではない点です。VPNは接続経路の仕組みとして今も有効です。一方のSASEは、通信の出口とセキュリティ制御点をクラウド化し、拠点やユーザーの分散を前提に再構成する考え方です。

VPNは何をしているのか

VPNを過小評価しない方がよい理由は、解決している問題が明確だからです。NISTの Guide to SSL VPNs は、SSL VPN technologies がリモートユーザーに対して企業ネットワークやアプリケーションへの安全なアクセスを提供すると説明しています。
Source: NIST SP 800-113

情シスの現場では、VPNは次の条件で今も合理的です。

  • 接続先が主に社内AD、ファイルサーバー、VDI、特定の業務サーバーである
  • 利用者数や利用時間帯が比較的読みやすい
  • 通信を本社やDCへ集約しても性能劣化が許容範囲に収まる
  • 端末管理、MFA、ログ保全をすでにVPN運用へ組み込めている

逆に負荷が上がりやすいのは、社外から入ってくる全通信をVPN装置に集めた結果、SaaS利用まで本社経由になってしまうケースです。帯域の増強、ゲートウェイ冗長化、障害時の切り分け、クライアント設定差異への対応が積み上がると、VPNそのものより「VPNに依存したアクセス設計」がボトルネックになります。

ここで押さえたいのは、VPNの課題は暗号化方式だけではなく、接続後の権限範囲や経路の置き方にもあるという点です。VPN接続後に社内ネットワークへ広く到達できる構成では、認証後の横移動リスクを別手段で抑えなければなりません。

SASEは何をまとめる考え方か

Ciscoの公式説明では、SASEはSD-WANに加え、secure web gateways、CASB、firewall as-a-service、ZTNAといった機能をクラウドから提供するアーキテクチャと定義されています。
Source: Cisco, What is secure access service edge (SASE)?

Secure access service edge (SASE) is an architecture that delivers converged network and security as a service capabilities...

"セキュアアクセスサービスエッジ(SASE)は、ネットワークとセキュリティをサービスとして統合した機能を提供するアーキテクチャです。"

出典: Cisco

この定義から読み取れるのは、SASEが単一機能ではなく、接続と防御を同じ場所で扱いやすくする設計思想だということです。情シスにとってのメリットは、単に「クラウドで楽になる」ことではありません。次のような運用課題を一つのポリシー体系に寄せやすい点が本質です。

  • 拠点ごとに分かれていたセキュリティ装置の設定を集約したい
  • SaaS利用時の出口制御や可視化を強めたい
  • ユーザー単位、端末状態単位でアクセス制御したい
  • 在宅、出張、支社、クラウド利用を同じ前提で扱いたい

ただし、SASE導入で自動的にゼロトラストが完成するわけではありません。SASE製品を入れても、ID連携、端末信頼性評価、アプリ単位のアクセス設計、ログ運用まで整わなければ、見た目だけ新しくて実態は従来型という状態になり得ます。

情シスが見るべき本質的な差は「アクセス単位」

VPNとSASEの差を最も実務的に表すなら、接続を何の単位で許可するかです。NIST SP 800-207 はゼロトラストの中核として、ユーザーや資産に対して暗黙の信頼を置かない前提を示しています。

no implicit trust granted to assets or user accounts

"資産またはユーザーアカウントに暗黙の信頼は付与されていません"

出典: NIST SP 800-207

この一文は短いですが、VPN運用の見直しで重要です。従来のVPNは、認証後に「社内側へ入る」ことを前提にした設計になりやすく、アクセス制御がネットワーク境界寄りになります。一方、SASEで一緒に語られるZTNAは、ユーザー、端末、アプリ、セッションごとの条件付き許可へ寄せやすい構造です。

CISAの Zero Trust Maturity Model Version 2.0 も、ゼロトラストを特定製品ではなく、アイデンティティ、デバイス、ネットワーク、アプリケーション、データなど複数の柱で成熟させる考え方として整理しています。
Source: CISA Zero Trust Maturity Model Version 2.0

情シスの判断としては、次の問いに答えると差が明確になります。

  1. 接続したいのは「社内ネットワーク全体」か、「特定アプリやSaaS」か。
  2. 許可判断に使いたいのは、IDとMFAだけか、端末健全性や場所、リスク信号まで含むか。
  3. 監査したいのはトンネル接続の有無か、アプリ単位の利用状況か。

もし答えが後者に寄るなら、比較対象は「VPNかSASEか」ではなく、「VPN中心運用をどこまでSASE/ZTNAへ置き換えるか」になります。

どんな企業ならVPN中心でもよいか

VPN中心で問題が小さい企業には共通点があります。社内向け資産がまだ多く、SaaS比率が高すぎず、拠点数や外部委託先が限定的で、ネットワーク境界の変更頻度も低いことです。こうした環境では、無理に全面的なSASE化を急ぐより、既存VPNに対してMFA強化、アクセス分離、ログ保全、特権アクセスの別経路化を進める方が費用対効果が高い場合があります。

特に次の条件が揃うなら、VPN継続は合理的です。

  • 利用者の大半が社給端末で、EDRやMDMの適用率が高い
  • 業務アプリの多くが社内DCにあり、SaaS直結の比率が低い
  • 接続先セグメントを十分に絞れている
  • 海外拠点や小規模拠点の増減が少ない

要するに、VPNが悪いのではなく、環境の変化に対して設計が追いつかなくなったときに限界が表面化しやすい、という理解が適切です。

どんな企業ならSASEを優先しやすいか

一方で、SASEの優先度が上がりやすいのは、接続先と利用場所が分散している企業です。具体的には、Microsoft 365 や Google Workspace を含むSaaS利用が主流で、利用者が本社以外からアクセスし、さらに委託先や海外拠点も混ざるような環境です。

この場合、情シスが抱えやすい悩みは次の通りです。

  • VPN経由でSaaSへ出すため遅延や帯域逼迫が起きる
  • 拠点ごとに別々の出口制御やURLフィルタ設定が存在する
  • ログがVPN装置、プロキシ、FW、CASBに分散して追跡が難しい
  • アプリごとに許可条件を細かく変えたいが、既存VPNでは表現しにくい

Cisco公式がSASEの利点として、コストと複雑性の削減、より安全なリモートアクセス、ポリシーの一貫適用を挙げているのは、まさにこの課題設定に対応しているためです。
Source: Cisco SASE benefits

ただし、SASEを優先しやすい企業でも、段階移行が現実的です。既存のVPNを即停止するのではなく、まずSaaS向け出口制御、次に一部アプリのZTNA化、最後に拠点接続の再設計という順で進める方が失敗しにくくなります。

導入判断で見落としやすい論点

SASEとVPNの比較で見落としやすいのは、製品機能ではなく運用責任の置き方です。SASEへ寄せると、ネットワーク担当、ID管理担当、端末管理担当、セキュリティ監視担当の境界が近づきます。これは良い面もありますが、責任分界が曖昧なまま導入すると、ポリシー更新や障害調査で逆に混乱します。

導入前に最低限確認したい論点は次の通りです。

  • 認証基盤は何を使い、MFA例外をどう扱うか
  • 端末信頼の条件を誰が管理するか
  • アプリ単位の公開判断を誰が承認するか
  • 障害時の切り分けをベンダー任せにせず、自社でどこまで見えるか
  • 監査ログをどの単位で保管し、どのチームがレビューするか

特に、SASE製品に多機能性を期待しすぎると、現行のアクセス棚卸しが不十分なまま移行してしまいます。先にやるべきは、全通信をSASEに載せることではなく、「誰がどのアプリへ、どの条件で接続すべきか」を一覧化することです。この棚卸しが甘いと、VPN時代の広すぎる権限をSASE上に移すだけになります。

もう一つ見落としやすいのは、運用コストの性質が変わる点です。VPNでは装置増強や回線帯域が論点になりやすいのに対し、SASEではポリシー設計、ID連携、例外申請の整理、ログ分析の定着が論点になります。つまり、設備中心の負担が減る代わりに、ルール設計と部門横断運用の成熟度がより問われます。情シスがネットワーク担当だけで閉じたままプロジェクトを進めると、認証や端末管理の前提不足が後から表面化しやすくなります。

移行時に起きやすい失敗パターン

比較記事を読んだあとに最も役立つのは、どこで失敗しやすいかの把握です。SASE移行やVPN見直しで起きやすい失敗は、技術要素よりも前提整理不足に集中します。

  • VPNの代替製品選定 としてだけ扱い、SaaSアクセスやアプリ公開方式の再設計を行わない
  • 全利用者を一気に移行し、例外ユーザーや古い業務端末の扱いで止まる
  • ID基盤連携はできたが、退職者・異動者・委託先アカウントの統制が不十分
  • 端末健全性チェックを入れたものの、未管理端末やBYODの扱いを決めていない
  • ログは増えたが、誰が毎週レビューし、インシデント時にどう追うか決まっていない

この中でも特に重要なのは、アクセス許可の単位を細かくできるようになったことで、逆に「設計しないと何も安全にならない」状態になることです。VPNでは粗い制御でも運用が回っていた企業ほど、SASEやZTNAの導入後にポリシー例外が急増しやすくなります。事前に権限棚卸しをしておけば、ここはかなり抑えられます。

検討を始める前のチェックリスト

次のチェックリストは、製品比較表を見る前に社内で確認しておくと有効です。ベンダー提案を受ける前に埋めておくと、必要機能と不要機能を切り分けやすくなります。

確認項目

確認内容

判断の目安

接続先の棚卸し

社内DC、IaaS、SaaSのどれが中心か

SaaS中心ならSASE優先度が上がりやすい

利用者属性

社員、委託先、海外拠点、BYODの有無

利用者属性が多いほどVPN一律運用は苦しくなりやすい

認証基盤

IdP、MFA、条件付きアクセスの整備状況

未整備ならSASE導入前にID側整備が必要

端末管理

EDR、MDM、パッチ適用可視化の有無

端末信頼を条件に使うなら必須

ログ運用

接続ログとアプリ利用ログを誰が見るか

ログの保管先とレビュー責任を先に決める

この表で見るべきなのは、ネットワーク製品そのものより「前提条件が整っているか」です。NIST SP 800-207 と CISA の整理が示す通り、ゼロトラスト寄りの運用では、ネットワークだけで完結しません。したがって、情シスが比較表を作るときは、回線や装置の要件だけでなく、ID・端末・アプリ管理の担当者も含めて判断する必要があります。

情シス向けの現実的な進め方

全面刷新よりも、順序を決めて比較検証する方が安全です。実務では次の順番が扱いやすいことが多いです。

  1. 現行VPNの利用者、接続先、ピーク時間、障害履歴を整理する。
  2. SaaS利用と社内アプリ利用を分けて、どちらがボトルネックか確認する。
  3. MFA、端末管理、ID基盤の整備状況を点検する。
  4. 一部アプリまたは一部拠点だけでSASE/ZTNAを試験導入する。
  5. ログ取得、ポリシー変更、障害切り分けの運用が回ることを確認してから対象を広げる。

この順番にする理由は、SASEがネットワーク更新案件であると同時に、アクセス制御モデルの更新案件でもあるからです。NISTやCISAの資料が強調するように、ゼロトラストは単独製品では完結せず、ID、端末、ネットワーク、アプリの整合が必要です。そのため、VPN更新案件としてだけ扱うと要件が不足します。

実務上は、PoCの成功条件も明確にしておくべきです。例えば「接続できたか」だけでは不十分で、SaaS利用時の遅延が改善したか、アプリ単位の制御が想定通りか、ヘルプデスク問い合わせが増えないか、監査ログが使える形で残るかまで評価する必要があります。ここまで見て初めて、VPN縮退やSASE拡張の判断ができます。

FAQ

SASEはVPNを完全に置き換えますか

必ずしも置き換えません。既存社内資産への接続や一部の管理用途では、VPNが残る構成は一般的です。重要なのは、全利用者を同じトンネルへ集める設計を続けるべきかどうかを見直すことです。

SASEを入れればゼロトラストになりますか

なりません。SASEはゼロトラストを支えやすい実装形態ですが、ID連携、端末信頼、アプリ単位制御、継続的な評価が揃って初めてゼロトラスト寄りの運用になります。これはNIST SP 800-207 と CISA の整理に沿う理解です。
Source: NIST SP 800-207
Source: CISA ZTMM

まず何から着手すべきですか

まずはネットワーク製品選定ではなく、アクセス棚卸しです。利用者、端末、接続先アプリ、認証方式、例外運用を一覧化し、どこがVPN依存で、どこがSASE/ZTNA化に向くかを切り分けると導入判断がぶれにくくなります。

まとめ

SASEとVPNの違いは、新旧の優劣というより、設計対象の広さにあります。VPNは安全な接続経路として今も有効ですが、接続後の制御やSaaS前提の運用まで単独で最適化する仕組みではありません。SASEは、分散したユーザー、拠点、SaaS利用を前提に、ネットワークとセキュリティを一体で扱うための選択肢です。

情報システム担当者としては、まず「誰が何へ接続するのか」を明らかにし、そのうえでVPNを維持すべき領域と、SASEやZTNAへ寄せるべき領域を分けて考えるのが現実的です。この記事はNIST、CISA、Ciscoの一次情報を基に、用語の定義と判断軸を絞って整理しました。製品選定に入る前に、この比較軸で自社要件を棚卸しすると、導入議論がかなり進めやすくなります。

特に、回線更改や拠点統合の時期が近い企業ほど、この整理を先に済ませておく価値があります。


古田 清秀(ふるた きよひで)
古田 清秀(ふるた きよひで)
InfiniCore株式会社 ソリューションサービス事業本部 責任者 新卒以来30年以上IT業界に在籍し、サイバーセキュリティの最前線で活躍する専門家です。 ネットワークインフラ構築の営業を通じてセキュリティの重要性を痛感。前職では新規セキュリティサービスのプロジェクトマネージャー(PM)として、その立ち上げを成功に導きました。 長年の経験と深い知見を活かし、複雑なセキュリティ課題を分かりやすく解説。企業の安全なデジタル変革を支援するための情報発信を行っています。